
本書は、帯にあるように「すべての女性の味方になる法律の本」であり、「女性の一生に寄り添う法律を網羅」し、しかも著者2名は、犯罪被害者支援などで活躍している経験豊富な弁護士である。内容も、恋愛、SNS・インターネット、学校、くらし、仕事、結婚と人生の各場面でのトラブルに対し、どのような法律があり、どのように使われるべきかを紹介している。珍しく感じるのは、法律の紹介がきちんと条文紹介となっていて、著者の性格か、出版社の方針だったのか、これは専門家にも役立つ!と思わせる。
こんなに確かに女性の立場に立ち、遭遇しやすいトラブルを網羅しつつ、きっちり法律を紹介し、しかも条文を挙げての紹介にもかかわらず、実は、本書を手に取った瞬間から何か違和感がある。この違和感の正体はきっと、まずは書名。「おとめ」って、「穢れなき少女」?そもそも「おとめ」って最近聞かないし、これって、もう死語かと思っていた。イヤイヤ、まだまだ少女たちは「おとめチック」を好み、バラ色の人生を夢見、もしかして白馬の王子様が私をさらいに来るかもしれない・・・なんて、思っている?はずがない。現実の生活がいかに苛酷かは、本書に紹介される事例で暴露されている。それでも本書のイラストの少女たちは、健気で、脆くも、ピンクのヴェールに包まれている(ように感じる)。生身の女性が傷つくとき、体と心から痛ましい血が流れているだろうに、その生々しさが隠されている(と感じる)。そして、ふと気がつく。そうか、この本は、「六法」で法律を紹介しているのだ。あの分厚い六法全書から女性に役に立つ法や条文を抜き出したとしても、そこに色がつくわけではない。これが適用される場面が生々しいのだ。
本書は、事例の紹介はあっても、法が適用された場面紹介である判例紹介がない。また、「おとめ」から当然、少女を想定したが、少女が女性として成長する過程で重要な居場所である「家庭」の問題が欠けている。少女たちが一番最初にトラブルに遭遇し、傷つくのは、家庭である。加害者となった家族、両親兄姉からの心身に対する虐待、これは生涯のトラウマとなって少女たちをさいなむ。ネグレクト、身体的・精神的暴力、特に性的虐待は深刻である。これら少女期に関わる一連の法(児童虐待防止法、児童福祉法、児童ポルノ禁止法、少年法等)がごっそり抜けている。このことによる違和感だったか。
もちろんこれらを差し引いても有用な書であることは疑いないが、出来たら、続編を期待したい。その時は児童虐待や機能不全となった家族の中で居場所を失った少女たちの福祉と司法についても、是非取り上げていただきたい。
◆評者 大谷恭子(おおたに・きょうこ)
弁護士、少女・若い女性に寄り添う若草プロジェクト代表。主著に「共生社会へのリーガルベース」「それでも彼を死刑にしますか」など。
◆書誌データ
書名 :おとめ六法
著者名:上谷 さくら・岸本 学著 Caho画
出版社:KADOKAWA
発行日:2020年5月28日
頁数 :208ページ
定価 :1540円(税込)
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