
書き継がれてきた14の論考と3つのエッセイには、ひとつの結節点がある。傷つく、傷つける、古傷がうずく、生傷に触れる、傷を舐め合うなど、心の傷のアナロジーであるばかりでなく、ショッキングな出来事の衝撃を受け止める「身体」が、それにあたる。冒頭2つの章「トラウマの皮膚に触れる」「トラウマの味と匂い」を一読すれば、心身二元論を超えた心的外傷論の予兆が感じられるはずだ。
本書で論じられるテーマは、薬物依存、摂食障害、解離性同一性障害、女性への性暴力、男児への性虐待、ジェンダー/セクシュアリティなど多岐にわたる。さらに中井久夫、エイミー・ベンダー、島尾ミホ・敏雄との対話、学際研究の可能性まで、本書の射程は実に幅広い。臨床の足跡と医療人類学の考察は、「傷を語る・傷に触れる」「臨床の知」「傷に寄り添う」「傷と男性性」「知は飛翔する」という五つのセクションに束ねられ、傷と共にふるえる文体を通じて描かれてゆく。
『トラウマの医療人類学』や『環状島=トラウマの地政学』(みすず書房)、『傷を愛せるか』(大月書店)や『ははがうまれる』(福音館書店)の主題を引き継いで、傷を受けた人たちが身体に安住するための知恵と術を、人々の声に耳を澄ませながら探求する。
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◆目次
I-傷を語る・傷に触れる
1-トラウマの皮膚に触れる
2-トラウマの味と匂い
3-文化とトラウマ
II-臨床の知
1-治療者のジェンダー・センシティビティ
2-性暴力とPTSD
3-ドメスティック・バイオレンス(DV)とトラウマ
[間奏曲]中井先生に会いに、神戸へ
III-傷に寄り添う
1-薬物依存とトラウマ
2-災厄のもたらす身体
3-食べることの調律もしくは食べることの失調
[間奏曲]島尾ミホと敏雄――生き延びるということ
IV-傷と男性性
1-男児への性的虐待
2-男性の性被害
3-解離性同一性障害とジェンダー
[間奏曲]passing on=手渡す・伝える――エイミー・ベンダーとの対話
V-知は飛翔する
1-学問のクレオール
2-宙づりを生きる知のありかた
◆データ
書名 :トラウマにふれる――心的外傷の身体論的転回
著者名:宮地尚子
出版社:金剛出版
発行日:2020年9月1日
定価 :3,740円(税込)
慰安婦
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