表紙の帯に「世は『忖度』ばやり。/これは権力・権威に忖度せず、/反骨を貫いた著名人の列伝である」とある。元朝日新聞社会部記者の著者が長年にわたる取材人生で出会った忘れ得ぬ個性三十七人を選出。その異色の言行やエピソードを伝えている。
 故人を除く現存の登場者は十七人。うち、女性は半数近い八人を占める。いずれ劣らず個性豊かな面々の横顔を登場順にざっと紹介すると――
 トップ・バッターはフェミニズム切っての論客の東大名誉教授・上野千鶴子さん。昨年春、東大の入学式で祝辞を求められ、「(一般的には)男子優位の学部・学科は医学部以外には見当たらない」と指摘。東大の女子の比率が「二割を超えない」というカベに言及。「息子は大学まで、娘は短大まで」という親の性差別の結果と言い切り、衝撃をもたらした。
 東京六大学で初の女性総長(法政大)・田中優子さんは極めてユニークな個性の持主だ。江戸時代の文化や社会構造に詳しく、社会学部教授当時は講義に劇画家・白土三平の大河マンガ『カムイ伝』を採用。「現代の日本人は、まるで江戸時代の(世事に疎い)武士の人口が膨れ上がったかのよう」と説いた。
 沖縄のテレビ局出身の映像作家・三上智恵さんは近年、『標的の島 風(かじ)かたか』など迫力あるドキュメント映画を次々制作。沖縄の米軍基地をめぐる緊迫した情勢を生々しい映像でレポート。日本の各地で自主上映して大ヒットを重ね、波紋を広げている。  
コラージュ(布貼り付け絵)作家・俳人の藤田桜さんは九十代半ばの今なお現役。夫の洋画家・高橋秀さん共々、壮年期にイタリア生活四一年。当時詠んだ句が「望郷の思ひおのずと菊の頃」。『ぴのっきお』など秀抜な作品はメルヘンめく詩情にあふれ、ハートに響く。
 生け花・茶道・墨絵・造園をたしなむ山田みどりさんはロシア在住三十年余。五十代半ばで現地へ渡り、モスクワの大学院を修了。延べ千人以上もの弟子たちに、日本の伝統文化の神髄を手ほどきし続ける。高齢なのに残んの色香を漂わすフシギな女性でもある。  八十代半ばの今なお現役を続ける前衛舞踊家・長嶺ヤス子さんは「私には神がかりな何かがあるの」とつぶやく。会津地方の山中で長年にわたり百匹以上のネコを飼い続け、慈母さながらの面影を宿す。
 東京の下町育ちの倍賞千恵子さん・美津子さん。かつての美人女優姉妹は、今や実力ある演技派として鳴らす。仲が良く、共に一流であり続ける姉妹は稀だ。「東京二代目世代」の最も有名な成功例であり、仕事の場で独力で己を磨き上げたところに感服する。 (著者 横田喬)