「中古典」とは著者・斎藤美奈子さんの造語で、「古典に昇格する一歩手前にある、中途半端に古いベストセラー」のことです。ある時期一世を風靡した本の中には、10年、20年たっても読まれつづけ、いずれ「古典」と呼ばれるようになる本もあれば、たとえミリオンセラーになっても現在はすっかり忘れさられて、タイトルを聞いても「あー、そんな本もあったねえ」となつかしむだけになってしまう本もあります。

 本書は、いわば〈読書界の懐メロ〉である60~90年代初頭のベストセラー48冊を俎上にのせて、著者ならではの軽妙でパンチの効いた文章でテンポよく料理していき、「今読んでも面白いか、読む価値があるか」といった、現在の視点からみた賞味期限を、「名作度」「使える度」で容赦なく判定する本です。

 取り上げた本は、丸山眞男『日本の思想』、浅田彰『構造と力』から、黒柳徹子『窓ぎわのトットちゃん』、田中康夫『なんとなく、クリスタル』、まで硬軟取りそろえたラインナップとなっています。

 現在も刷を重ねる中根千枝『タテ社会の人間関係』のように長年にわたり名著として崇められてきた本に対しても、「どうして名著なのかわからない」と遠慮なくツッコミを入れているところも、読みどころのひとつとなっています。「傑作」とされてきた井上ひさし『青葉繁れる』が、高校生たちの起こしたレイプ未遂事件を「悪ふざけ」「冒険譚」として描いていることに呆れ、遠藤周作『わたしが・棄てた・女』や石川達三『青春の蹉跌』にひそむミソジニー(女性蔑視)にも、再読してあらためて気づかされました。
 60~70年代には山本茂実『あゝ野麦峠』、鎌田慧『自動車絶望工場』のような社会派ノンフィクションがベストセラーになり、80年代のベストセラーはどこかチャラチャラして上り坂だった時代の勢いが感じられるなど、ベストセラーを読み解いていくことで、「時代」が透けて見えてくる面白さもあります。また、『日本人とユダヤ人』『「甘え」の構造』といった「日本人論」は、くりかえしベストセラーが生まれるお決まりのジャンルであることもわかります。

 以上のように読みどころが多く、その昔読んだことのある本であればなつかしく思いだし、書名くらいは聞いたことの本については、読んでいなくてもどんな本かわかって知ったかぶりができるというたいへんお得な本になっていますので、ぜひお手にとってみていただければ幸いです。

【名作度】
★★★ すでに古典の領域
★★  知る人ぞ知る古典の補欠
★   名作の名に値せず

【使える度】
★★★ いまも十分読む価値あり
★★  暇なら読んで損はない
★   無理して読む必要なし

◆書誌データ
書名 :中古典のすすめ
著者名:斎藤美奈子
出版社:紀伊國屋書店
刊行日:2020年8月25日
定価 :1870円(税込)