
拝啓 まだお会いしたことのない多くの皆様、そしてすでにお目にかかりましたステキな皆様。私は、2020年10月に『寿ぐひと 原発・住民運動・死の語り』(新評論)を上梓しましたドクターファンタスティポ★嶋守さやかと申します。
このたびWAN理事長の上野千鶴子先生より、自著紹介コーナーに拙著の「紹介文を書いてみませんか」とのお声をいただきました。本当にとても光栄で、心から喜んでおります。
お声がけいただいてから、皆様へと拙著について何をどのようにお伝えしようかとずっと考えておりました。そして、やはり皆様へと心を込めてお手紙させていただきたいと思いました。気忙しい時間が日々過ぎるなか、それは少し難しいお願いかとも存じますが、皆様のお時間を少しでもいただければとてもさいわいにございます。
拙著『寿ぐひと』の前半では、名古屋で開催されたWAN女子会での上野千鶴子先生、渋谷典子さんとの出会い。今大地晴美さん、山秋真さん(お二人ともWAN会員)への取材とインタビューをさせていただくまでのお話を書きました。内容は福井県敦賀の原発、そして山口県の祝島における住民運動です。拙著の後半では前著『孤独死の看取り』(新評論、2015年)の続編として「看護師による死の語り」を書きました。生きて生活するための闘いと生死を労い、慶び、寿ぐひとのお話を一冊の本にしたいと考えたためです。
「旅する聖(日知り)」である「寿ぐひと」が「原発、住民運動、死の語り」をかたる。そのかたりを理解するためのキーワードとして、私は「想像力」と「現場力」を掲げました。地域、日本、世界を「知る」とき、その場に生きる人や暮らしを想像する。自分の生活圏ではないところの人たちの心情に自身を重ね、現場で「何ができるのか?」と考え実際に行動できることが、今後、さらに重要であると私は考えています。この本がもしも若い世代にも届くなら、その二つの力は是非ともつけてもらいたい。それはこの本を書いた私の願いでもあります(この本は、私の授業の教科書です)。私は、支援者を育てる大学の教員なのです。
拙著を著すために、私は沖縄・宮古島、敦賀市、祝島、東京・山谷、カンボジア、地元の愛知県など(実は、もっと多くの土地)を自分の足で歩いてきました。執筆の最中にコロナ禍となり、それから生死の語りが日々繰り返されています。しかし、どんな時代や情勢でも市場や制度に翻弄されず、生活の問題に自分たちで対処できるよう、少しでもよい現実を積み上げる。信頼、助けあい、おつきあい、憐れみ、共感を醸成したい。何より出会った人たちのかたり、記憶を継承したかった。その焦燥感と責任感とで私は必死に言葉を書き連ね、たくさんの方々に支えられた感謝とともに、やっとこの本ができあがった気がします。
ここまで、拙著の筆者である私が拙著を紹介してきました。ここからは「拙著を読んだ」と連絡を下さった方々からの文章をご紹介します。「本は出してしまったら、読み手のもの」という上野千鶴子先生からのお言葉に、これまでの私は随分と励まされてきました。確かに、拙著を読了しお考えをお寄せいただいたお便りには、書き手の私の思いが私の意図を随分と超えて伝わった言葉で、溢れていました。
拙著が手元に届くとすぐ、私は拙著の取材でお世話になった方へとお手紙を書き、拙著を贈りました。私が書いた内容が思いを無下にしていないか。それが一番、心配だったのです。
拙著の第2部第4章「わたくしさまの観音様」に示した依存症者の回復を祝いつづける「リカバリーパレード」で知り合った菜乃さんからのお便りがありました。「セクマイの自助グループに参加する遙か以前より、精神障がい者として過ごしているピアサポーター」である菜乃さんは、「等身大のご自身の筆致でリカパレを捕らえ、押し付けてくる教えではなく、まさに私たちリカパレとの“出会い”を寿いでいただき、嬉しく思いました」との言葉をくださいました。さらなる文面に、拙著の第1部、原発と住民運動への言葉がありました。
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『寿ぐひと』において嶋守さんの「声」が生々しいと感じられた第一の要因は、「食べ物」に関する記述の多さです。それは私の感覚では「内蔵感覚」と呼ぶにふさわしい。
食べ物だけでなく、海に囲まれた祝島そのもの、そしてそこに住まう住民の皆さまは大海原という母胎に囲まれて生を営んでいるのではないでしょうか? そんな母胎を原発で汚すことなどできようか? そんな母体を原発により、いつか完全に殺すことに荷担するなどできようか?
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私の筆致から、菜乃さんは「人々に対する憐れみではなく、実際の肌感覚に近いある種の切迫感に似た共感」を読み取ったそうです。「切迫感」「内臓感覚」ですが、第2部第3章「後生を願いに」での「医療従事者さん側のお話に釘付けに」なったという方からのお手紙にも、私は心を揺すぶられました。その方は生体間での臓器移植経験者でした。
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『寿ぐひと』を読み進め、久しく思い出していなかった主治医やコーディネーター、看護師さんの顔や会話を不思議と鮮明に思い出し、ちょうど10年目の秋、改めて感謝を胸にすることができました。私の担当だった方も色々悩まれながら声をかけてくれていたと、きちんと知ることができました。おかげで今朝はとても気分が晴れやかです。空が高く、風が心地よく、術後はじめて出た外の空に「生きてこそ」と感じたあの日を思い出しました。支援されていたことに気づき、現在は支援する側になった自分の在り方についてもさらに考えを深めたいとも感じました。毎日毎秒死を望む利用者さんに今日はどんな言葉をかけようか。昨日とは少し違う言葉がかけられる、かも、しれない。そんな気がします。
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「読んでみて、生と死が隣り合わせだったことを思い出した」という言葉の重みは、この紹介文の最後にご紹介したい彦坂諦さんからのメールからも強く感じました。「あなたも、もうしたしきともですから、遠慮などいっさいいりません」とのお言葉をいただいてここに書く彦坂さんのお話に、この文章を読んでくださっている皆さまもきっと驚かれることでしょう。それは、2020年10月8日時点での、彦坂さんのご体調についてです。
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さやかさん、いっそう好きになりました、あなたが。
『しょうがいしゃの皆サマの、ステキすぎる毎日』といったタイトルをつけることのできるあなたの感性には、むろん、以前からいたしみを感じてはいたのですが、今回、お贈りくださった『寿ぐひと』というタイトルには瞠目しましたね。
いま、わたしは、訪問看護を受けながら訪問リハビリも受けている病人の状態です。ことしは、三月に最初の転倒を道路上でやって以来、二回目の転倒(おなじ道路上)では、たまたまそこにいたひとたちの介助によっても、右足に力がはいれず、立ち上がることが不可能で、寝たまま救急車で運ばれるしまつでした。以来、入退院を繰り返し、いまは自宅療養の日々を送っています。なんとか、
室内を杖をたよりに歩ける状態にはなっていますが。
こういう状態のなかで、あなたのこの本を開く気にはなかなかなれないでいました。しかし、いま、しっかと読みおえたので、この感動をつたえることができます。
いろんなひとが語るのを聴く、その姿勢がいい。オーラル・ヒストリーが歴史学の一翼として登場したころ、ひとが語るのを聴く者の姿勢を問題にする議論があった。
語りを受け身で聞くだけだと考えていては、ほんとうに聴いたことにはならない。あらかじめ聴きたかったようにしか聴かないのでも、ほんとうに聴いたことにはならない。「フィールドワークではない」と意識することは、とてもとても大切な姿勢ですよね。相手を、たんなる客体として、そこから、あらかじめ、ひきだそうとおもっているものを聴くといった姿勢をあらかじめ排除している、あなたの姿勢は正しい。
いい本にまとめてくれましたね。はじめの1ページから読むことはない。
偶然開いたそのページから読みだしても、しまいのほうから読みだしてもいい。
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大事なお友達だと考えている方から、生と死に関するお手紙をいただくと、本当に心が動転します。生と死に今の今、向き合っている方。そして、今もなお生死の苦しみにある方々に、この本はどのように受けとめられるのか。けれど、彦坂さんがお書きになった「偶然開いたそのページから読みだしても、しまいのほうから読みだしてもいい」という言葉が、この本をこれから読んでくださる方に届いたら、本当に幸せだと私は考えています。
お手にとっていただき、読みはじめたページから、ささやかながら、この本が、生きていることと死んでしまうことへの寂しさ、苦しさを抱えているみなさまの心に、優しく、柔らかく、きっと寄り添えますように。拙著の結びの言葉をここにも書き添えて、この文をここで終わらせたいと存じます。ありがとうございました。ごきげんよう。
かしこ
◆著者略歴
嶋守さやか(しまもり・さやか)桜花学園大学教授。主著『孤独死の看取り』(新評論、2015年)『せいしんしょうがいしゃの皆サマの、ステキすぎる毎日』(新評論、2006年)、共著書に『Sheという生き方』(新評論、2016年)。WANでは、「フェミニズムリサーチライブラリ」のコーナーで動画を配信している。
◆書誌データ
書名 :寿ぐひと 原発・住民運動・死の語り
著者名:ドクターファンタスティポ★嶋守さやか
出版社:新評論
刊行日:20/10/10
定価 :2400円+税
新評論へのリンク
https://www.shinhyoron.co.jp/978-4-7948-1161-5.html
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2020年11月26日(木)18:30開場 19:00開演
readin'writin'BOOKSTORE@東京田原町にて、『寿ぐひと 原発、住民運動、死の語り』の出版記念イベントを会場、オンラインともに開催します。詳細は、http://readinwritin.net/2020/10/13/「ハーモニーの今宵は幻」
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