小さい頃、家族や知り合いから、むりやり抱っこや頬ずりをされて嫌だったとことはありませんか? 誰かに何かをしようと言われて、乗り気じゃないけど断れず従って、やっぱりイヤな結果になってしまったことはありませんか? 

 あなたにとっては、決してちっぽけな出来事じゃないのに、相手は面白がって、よかったと思っている。あるいは、無理強いを通しても「当然だ」くらいに。 大人でも陥ってしまう同意のない行為や誘導の落とし穴、成長過程にある子どもなら、なおさら嫌だといえない、抵抗できないままになってしまうものですよね。 この本は、著者である映像作家のレイチェル・ブラウンが、自分の娘にそんな経験を相談されて生まれました。

 レイチェル・ブラウンは、2015年に『Tea Consent(お茶と同意)』の映像を作り、世界的に話題を巻き起こしたアメリカ在住のクリエイターです。セックスにおける双方の「同意(性的同意)」の大切さを「紅茶飲む?」とお茶にたとえたエッセイを元に作られたユーモラスな動画は、「わかりやすい!」と支持を得て、15か国語に翻訳され、日本でも注目を集めました。
 彼女は、この映像を製作したのち、自分の娘が学校の男の子にいきなりキスされた体験を聞いて、子ども向けの「お茶と同意」を作る必要性を感じ、まず2016年に動画『Consent (for kids!)』を製作し、今年、この本を出版しました。

 この本では、性的な言葉や比喩を使わずに、「性的同意」以前の「同意」や、自分と他人を区切る「バウンダリー(境界線)」を、わたしたちが日常で経験する身近な例で説明しています。自分の心と体は、自分のものであって、他人が勝手に自由にできるものではないこと(からだの自己決定権)、自分と他人を区切るバウンダリー(境界線)が人ごとに、場合ごとに、あるのだということ、そして「同意」の重要性と実践法を、子どもにもわかりやすく紹介しています。

 ここ数年、性暴力を告発する#MeTooの運動が世界中に広がりましたが、まだまだ性暴力やハラスメントはあとを絶ちません。同意のない性的行為が、暴力やハラスメントである、という認識が浸透するには、個々の意識改革が必要です。それは子どもにも小さいうちから教えるべきですが、重要なことなのに、日本では学校で学ぶ機会はありません。
そもそも日本には「はっきりとイエス、ノーを言わないのがよい」とされる土壌が様々な場面で存在しています。そのせいか子どもはもちろん大人でさえも、親子やパートナーとの間で、友人関係や学びの場や職場でも、断り切れずに困ることが頻繁に起きがちです。
 そんなとき、この本にある「同意」と「バウンダリー」で考えると、スッキリ整理できることも多いと思います。

 この『子どもを守る言葉「同意」って何? Yes、Noは自分が決める!』は、ぜひ多くの子どもに、そして大人にも読んでもらいたいと思っています。親子で話し合いながら読むのにも最適です。どうぞ手に取ってみてください。きっとあなたにも、勇気が湧いてくる一冊になるはずです。 
                                      (なかい・はるの 児童書翻訳者)

◆書誌データ
書名 :『子どもを守る言葉「同意」って何? YES、NOは自分が決める!』
作者名:レイチェル・ブライアン
訳者名:中井はるの
出版社:集英社
刊行日:2020年10月31日
定価 :1760円(税込)