ドイツでは11月いっぱいの予定だった部分的ロックダウンも半分終わりましたが、新規感染者数は日々増加するばかりで、なかなか改善の兆しがありません。レストラン等が12月以降もオープンすることはないだろうと、メルケル首相も漏らしました。ドイツでとても大切なクリスマスに、家族が集うことが果たして可能となるでしょうか。
マスク反対派や陰謀論者のデモはあいかわらずチラホラとあるようですが、それでもマスク着用に関してはここドイツでもかなり定着した感があります。ただ、身体距離の確保はまだまだ十分とは言い難いレベルです。というより、もともと身体距離に無頓着な人が多いので、これはもう不可能なんじゃないかとあきらめています。
先月にはドイツ西部の都市アーヘンで、71歳の男性が、ジョギング中やサイクリング中の人たちに対して、「近づきすぎた」という理由で胡椒スプレーを噴射し逮捕されたのですが、この男性は、新型コロナ感染予防のために奨励されている身体距離を取らない人々に不満を覚え、自己防衛の手段として使用したと主張しています。サイクリストたちが警察に通報、男性は逮捕され、身体攻撃と道路交通妨害とで起訴されました。
胡椒スプレーはネットやドラッグストアなどで簡単に手に入りますが、名目上は「動物(の攻撃)に対する使用」に限られています。対人使用目的では武器扱いとなり、武器法第3条第2項により、その所有・購入は14歳以上に限られます。胡椒スプレーのように最大2メートルの範囲で刺激物を噴射できる携帯物は刺激性噴射装置、すなわち武器とみなされますが、実際には、商品に「動物忌避用」の表示も、購入時の年齢記入もなく、簡単に手に入ります。私も、夜道での自己防衛用に購入したあとに初めて、対人使用はできないと息子たちから教わりました。
正当防衛の場合は対人使用も認められる場合もあるようですが、証明するのが難しいようです。たとえ自己防衛目的であったとしても、使用が長すぎたり激しすぎたりすると、刑法33条により過剰防衛とみなされる可能性があります。したがって、この老人の場合も処罰対象となってしまいました。ただ、SNSなどではこの老人に同情する声も多いようでした。
私自身、ドイツ人の身体距離に対する無頓着さには長年悩まされています。このパンデミックのなか、WHOは最低でも1メートルの距離を取ることを奨励しており、ドイツでは1.5メートル、北米では2メートルが推奨されています。
ただ、個人的にはパンデミック以前から、北米や日本に比べて、ドイツでは人々が近くに寄り過ぎると感じていました。スーパーのレジでは真後ろにぴったりと寄り添うように人が立ち、その息遣いまで聞こえてくるようです。在独邦人のあいだでは、ドイツ人の立ち位置が近すぎるので1歩下がると、ドイツ人がまた1歩進み出て、気がつけば壁際まで追い詰められていた、なんていう冗談も聞きました。
パンデミック中でもそれはあまり変わりません。床に適切な距離がマークされているにもかかわらず、ほとんどの人はその半分程度の距離しか取りません。ひどい時には、ソーシャルディスタンシングのルールなどまるで存在しないかのように近寄ってくる人もいます。そんなとき私はまず振り返って睨みつけますが、あまりにも近すぎるので後ろの人に距離を取るよう注意したことも何度かあります。
ドイツでは意外と「並ぶ」ことに無頓着な面があると思います。特急列車の乗降口でも並ばず、たまたまドアの近くにいた人から群がって乗り込む感じです。なので、列でぴったり並ぶことには「横入りを防ぐ」意味もあるのでしょう。効率重視の国なのに、不思議です。レストランや乗り物でも、日本なら空きがあれば少し離れたところに座るでしょうが、こちらではとくにそういうこともないようです。屋内喫煙がまだ可能だった2003年、赤ん坊連れの私たち以外に客がいないレストランで、次に来た客がわざわざ隣に陣取りタバコを吸うので、キレそうになったことがあります。ただ、地域によってはレストランでほかの客の近くに座るのがマナーというところもあるそうです。
公平を期すために言っておきますと、私が日常利用しているスーパーにはドイツ人以外の買い物客もたくさんいます。日本やカナダの距離感覚に慣れている私はどうしてもこの、必要以上に他人が近くに寄ってくることに馴染めないのですが、果たしてこれが事実なのか感覚的なものなのか、ちょっと気になって調べてみました。
すると、意外な結果でした。
少し古いデータになりますが、42か国約9000人に対して調査された2017年の「好ましい対人距離:国際比較」という研究によると、見知らぬ人との距離をもっとも多く取る国はルーマニアの140cmで、以下ハンガリー(131cm)、サウジアラビア(127cm)、トルコ(123cm)、ウガンダ(122cm)、パキスタン(120cm)、エストニア(118cm)、コロンビア(117cm)、香港(116cm)と中国(116cm)と続いた。逆に、もっとも距離を取らない国はアルゼンチンの77cmで、以下ペルー(80cm)、ブルガリア(81cm)、ウクライナ(86cm)、オーストリア(88cm)、スロバキア(89cm)とロシア(89cm)、ギリシャ(91cm)、セルビア(92cm)、イタリア(93cm)でした。

出典:Preferred interpersonal distances: A global comparison: Journal of Cross-Cultural Psychology, May 2017.
ドイツは「(見知らぬ人と)距離を取らない国」13位の96cmで、なんと、12位のアメリカの95cmより長かったのです。私はアメリカで他人が近くに立ちすぎると感じたことはなかったのですが、どうやら感覚的なものだったのかもしれません。同じヨーロッパでもイギリスでは、他人の近くに立ちすぎるのは失礼とされているそうで、全体的にも中間寄りの16位(99cm)でした。また、隣り合う国々でも距離を取る国と取らない国があったりするのが面白いです。さらに、暖かい地方ではより距離が縮まる傾向にあり、この特徴はたとえば、アメリカ国内などでも見られるようです。
残念ながら日本は調査対象に入っていません。距離を取る国と取らない国のちょうど真ん中に位置するのが韓国です。カナダもほぼ真ん中あたりですが、カナダに関して面白いのは、「知らない人」「知人」「親しい人」と3種あるカテゴリーの中で、知人や親しい人でも距離があまり縮まらないことです。
私はドイツ以前に日本やカナダで暮らし、また都会育ちでもあるので、十分な対人距離 — パーソナルスペース −− を心地よく感じる原因はこのあたりにあるのかもしれません。
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