2010.11.02 Tue
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.なぜ、依存の問題は正義の問題からこぼれおちてしまうのか。私たちはみんな平等である、という単純明快な考え方が、なぜ女性を包摂しえないのか。その理由を、依存労働という性質から解明し、依存という私たち人間にとって普遍的な事実を含みうる正義論の再構築をめざすのが本書である。
キテイは、正義を考える際に重要となるいくつかの概念を、別のものと置き換えていく。それによって、依存やそこでの関係性を包摂しうるような概念的、理論的基盤づくりを試みる。そこで用いられるオルタナティブな概念は、既存の理論からすればびっくりするほど奇抜なものであるだろう。しかし、よくよく見ると、それらは私たちが長年、経験的に、感覚的に親しんできた考え方である。
たとえば、「平等」という概念に含意されてきた“自立的な個人”を、私たち一人一人が等しく“お母さんの子ども”という考え方に置き換えたら、「平等」の議論はどうかわるだろうか、というふうに。キテイは、日常生活の中で私たちが慣れ親しんできた考え方で、使えそうなあらゆるものをかき集めて鋳造し、理論の中に組み込んでいくのである。したがって、本書では、独特の言い回し、だけど何となく親しみのある言葉にいくつか出会えるのも、読む楽しみの一つである。
もう一つ、本書の特徴は、依存者をケアする「依存労働(者)」に焦点をあてる。依存労働者は依存者との関係性において、そこで生じるニーズに常に左右される存在である。依存労働者に焦点をあてることは、依存者―依存労働者の関係性を含み込むことであり、その関係性を軸に議論を展開することを意味する。依存労働という市民一人分以上の責任と負担、自発的に選んだわけでもなく、かといって強制的でもないような関係性、定められた義務以上につい深く関与してしまう私たちの思いやり……このようなとても人間的なことがら、しかし、合理的で自立した一人の個人という想定からはずれるがゆえに、正義の問題からこぼれおちてしまうことがらを、いかに正義論の中に位置づけなおすことができるだろうか。キテイは、依存者をケアする依存労働者に対するケア、という議論の転換とともに、ロールズの正義論およびアメリカにおける福祉政策へ大きく切り込んでいく。「正義の第三原理」および新たな福祉政策の提言やいかに!?
個人的には、第6章と第7章は読むたびにうるうるしてしまい、とにかく読んでください!の一言に尽きる。
本書から見えてくるのは、「男性視点の進歩的な理論で構想しても描けない」(本書p.400)世界の入り口である。(共訳者、山本千晶)
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