新自由主義とは異なる、新しいリベラルを求める動きが高まっています。これまで新自由主義の影響を色濃く受けてきたフェミニズムにも、新しいアプローチが生まれているようです。この点は日本社会では必ずしも共有されておらず、これを指摘すると女性たちの間に戸惑いのような空気が立ち上ることを何度か感じさせられてきました。
そんな中で、年末から年頭にかけて読んでとても頭が整理され、これからのフェミニズム運動を進めるうえで一つの基礎になる、と思えた本がありましたので、ご紹介します。
1)『世界を動かす変革の力~ブラック・ライブズ・マター』(アリシア・ガーザ著、人権学習コレクティブ監訳、明石書店、2021年1月)
2)『99%のためのフェミニズム宣言』(ナンシー・フレイザーなど著、惠愛由ほか訳、人文書院、2020年10月)
1)は「多様な人々の連携」をどうするのか、という点がテーマです。
「黒人」の命を軽視する社会を変えるために、女性、性的少数者たちがどのようにブラック・ライブズ・マター運動を構築したかを、その担い手の女性が体験に基づいて整理した本なので、とても実践的です。その意味で、特に心に残ったのは、次のフレーズでした。
「すべての人があらゆることについて同じ考えである可能性は低く、私たちの運動を何かしら影響のあるものにするのであれば、人々の心をつかまねばならない。つまり、今までのように派閥をつくるのではなく、数百万単位の人々を動かすために全力を注ぎ、やる気のある人たちのグループをつくる必要がある」
2)については、私が拙著『家事労働ハラスメント』で言いたかったことは、ひょっとしたらこれだったのかも、とも思いました。書評には分量の関係でふれていませんが、菊地夏野さんの解説が興味深く、そこでもブラック・ライブズ・マターと新しいフェミニズムとの関係に触れています。「週刊文春」の今週号で私がこの書評を担当し、このほど「文春オンライン」に収録されましたので参考までにご一読ください。
https://bunshun.jp/articles/-/42864
この書評でそれなりに意義をご紹介したつもりですが、さらに言えば、次の部分がポイントかと思いました。かつての「資本主義」=「資本家対労働者」という構図を、多様な立場の人々が手をつないでいくためのフェミニズムへ向けて再定義した部分です。
→「人間の形成と利潤の形成を切り離し、前者を女性にゆだねて後者の踏み台にする資本主義」「私たちはまだ連帯できる、本当の敵は資本主義だ」
人間が生きるために必要な営みを女性だけに押し付け、これを利潤のために搾り取る、というシステムへの批判ですね。
格差と性差別と分断、という多重的な重しを乗り越えるためのカギとしてのフェミニズムの再生が、二つの本の共通の関心といってもいいかもしれません。
(たけのぶ・みえこ 評論家)
◆書誌データ1)
署 名:世界を動かす変革の力——ブラック・ライブズ・マター共同代表からのメッセージ
著者名:アリシア・ガーザ (著), 人権学習コレクティブ (監修, 翻訳)
出版社:明石書店
刊行日:2021/01/15
定 価:2420円(税込)
◆書誌データ2)
署 名:99%のためのフェミニズム宣言
著者名:シンジア・アルッザ (著), ティティ・バタチャーリャ (著), ナンシー・フレイザー (著),
翻訳者:菊地 夏野・菊地 夏野 ほか
出版社:人文書院
刊行日:2020/10/22
定 価:2640円(税込)