目下世界を巻き込んで(というより海外の反応に促されて)取り沙汰されている、2月3日の日本オリンピック委員会(JOC)会合での森喜朗氏の女性蔑視発言では、森氏の発言に対し抗議したり否定したりする人がいなかったことが、「問題の根深さ」を伝えているといわれます。

 その「問題の根深さ」ですが、翌日2月4日の衆院予算委員会でも、如実に見られたと思うのです。しかし、この予算委での一幕がマスコミで伝えれらているのを見ることはありませんでした。質疑応答に立った女性議員2名が森氏の言う「わきまえられた」人であったから、議員ご自身もマスコミも常と同様にスルーされたわけでしょうか。  しかし、森氏への抗議にとどまらず「問題の根深さ」を考える機運が高まりつつある今だからこそ、あらためて、翌日2月4日の衆院予算委の一幕を(これをマスコミは問題視しなかったこともあわせて)、その意味を、考えてみても(あるいはもっと積極的に検証してみても)よいのでは、と思いました。その一幕の模様は、YouTubeに録画がありますので、実際にご確認いただけます(下記URL)。

 まず参考のために、件の森氏の女性蔑視発言を2例挙げます。(2021年2月3日付 朝日新聞より)
「女性の理事を増やしていく場合は、発言時間をある程度、規制をしないとなかなか終わらないので困ると言っておられた。だれが言ったとは言わないが」 「私どもの組織委員会にも女性は何人いたっけ? 7人くらいか。7人くらいおりますが、みんなわきまえておられて。……我々は非常に役立っておりますが」  JOC評議員のメンバー(全部で57人、内女性は1人)は、森氏の「わきまえている」発言の際に「笑った」とされます。

 さて、森氏の問題発言のあった翌日、2月4日の衆院予算委員会です。女性議員の木村弥生氏(自民)が、ひとり親家庭への支援やコロナ禍で悪化するDV被害等を救済する体制整備について質疑をし、最後に「もう時間がないかと思います。すみません、橋本大臣に一言思いをお聞かせいただければと思います」と願い出ました(木村氏はその少し前にも「もう時間がない」ことを気にかける発言をしています)。それに対して、委員長の金田勝年氏は「はい、時間がきておりますから、一言で、お願いします」と応じ、場内には「ははははははっ」と年配男性議員の思わせぶりな失笑の声が広がったのでした。

参照:「【国会中継】衆院予算委 令和3年度予算で質疑(2021年2月4日)」(動画経過時間 3:17:45〜3:19:05の場面)https://www.youtube.com/watch?v=U7uaA8G49uM

 予算委の場内は、何に対し、どうして、笑ったのでしょう? オモテ向きには、笑うべき何物もないところです。しかし、その場にいた誰でも、この失笑が何を意味するのかわかっていたはずなのです(当然のように笑い声が起こり、当然のように誰もそれを咎めず「粛々と」進行したのですから――マスコミも含めて)。

 思うに、こうした「失笑(冷笑)と保身」は、何も国会議員にかぎったことではなく、毎日の会社勤めのなかでも、繰り返されていることではないでしょうか。どれほど、「失笑と保身」の壁にぶち当たった女性たちは、侮辱を感じてきたでしょうか。そして、やはり女性自身自らの身を守るために、やがて、侮辱を侮辱と感じる感覚さえ麻痺させてしまったのではないでしょうか。
 さらに女性を苦しめてやまないのは、「侮辱を侮辱と感じる感覚さえ麻痺させてしまったこと」が、おそらく、相手の男性方には「わきまえている」と受け取られていることではないでしょうか。このことを苦しく思うのは、侮辱を侮辱と感じる感覚を麻痺させず、それゆえ痛手を受けつづけた女性の側でも、同様なのです。