
平等という言葉はあふれているが、それは実はマジョリティに利する場合にのみ許される条件つきの平等ではないのか。本書はフランスの事例を扱っているが、こうした疑問をもつすべての人に開かれている。
著者はまず、フランス憲法には「自由・平等・友愛」という標語が掲げられているが、「友愛」とは実は「兄弟=白人男性」のあいだのものでしかなく、そこからは「兄弟ではない者=非男性・非白人」が排除されていることを、さまざまな実例を示して告発する。
著者はさらに、「平等」そのものに「条件」が含まれていることを指摘する。21世紀の現在、「兄弟ではない者」も、平等を享受しているように見えるかもしれない。だが、「それは、自らの特異性つまり差異への帰属を演出するという意味と、利益をもたらすという二重の意味でパフォーマンスするという条件においてなのだ」。「兄弟でない者たち」は、超えることのできない他者性の領域に、同類であることとは両立しない補完性の領域に閉じ込められ、しかも、その補完性には文化的、社会的および/あるいは経済的な『付加価値』をもたらすという「条件」がつけられている。
著者が目指すのはもちろん、男女平等だけではない。「人は潜在的に差別の原因となりうる複数のアイデンティのインターセクシヨン(交差点)に存在している」という観点から、性別、人種、そして社会階級といった社会的関係に照らして、考察している。
そして、真の平等にたどり着くために、「私たちはみな同類だと想像し、同類になる勇気をもとう」と呼びかける。「兄弟たち」の間では互いに平等であることと一人ひとりが特異で異なる存在であることが矛盾しないのと同じように、「兄弟ではない」とされている人たちもまた、性別や人種、宗教、社会階層などに結びつけられた集団的なアイデンティティに閉じ込められることなく、一人ひとり個人としての特異性を平等に開花させることのできるユートピアを現実にしよう! 一見、抽象的で理想主義に思えるかもしれないが、本書を読めば、著者の主張が「現実に根ざしている」からこそであることが理解できる。
フランスの現状に詳しくないかもしれない日本の読者にも理解しやすいように、かなりの数の訳注を補いました。大学での入門副読本としてもご活用いただけると思います。 (訳者)
なお、以下のアドレスで「目次」と「訳者あとがき」の全文をご覧になれます。
https://keisobiblio.com/2021/04/28/atogakitachiyomi_jokennakibyodo/
また、訳者あとがきのフランス語訳は以下からお読みいただけます。
https://wan.or.jp/article/show/9720
◆書誌データ
書名 : 条件なき平等:私たちはみな同類だと想像し、同類になる勇気をもとう
著者名:レジャーヌ・セナック
訳者名:井上たか子
頁数 :160頁
出版社:勁草書房
刊行日:2021/4/20
定価 :2420円(税込)
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