
本書『環状島へようこそ――トラウマのポリフォニー』は、2018年から2020年まで雑誌『こころの科学』(日本評論社)に断続的に連載された対談がもとになっている。すべての対談のホストをつとめるのは宮地尚子氏。長くトラウマの臨床や研究に携わってきた精神科医であり医療人類学者である。
対談のゲストは、7人の臨床家や表現者。森茂起氏、伊藤絵美氏、林直樹氏、坂上香氏、斎藤環氏、野坂祐子氏、松本俊彦氏。全員がそれぞれの立場で、トラウマを抱える当事者(宮地氏の言う「被傷者」)にかかわってきた。
対談は、事前の打ち合わせも最小限に、筋書きのない「即興演奏」として行われた。被傷者と支援者の位置関係をあらわすために、宮地氏が考案したモデル「環状島」(『環状島=トラウマの地政学』みすず書房)を軸にして、互いのイメージを交換し、領域を横断し、現場の知恵を交わらせる。支援の在り方について、治療者のサバイバルについて、社会の理解を深める方法について、新たな可能性を浮かびあがらせていく。こうしたプロセスをこそ「対話」と呼ぶのかもしれない。
本書のタイトル『環状島へようこそ』には、「読者の方々への招待、歓迎、歓待」の意が込められている。お誘いの言葉として、終章「トラウマを語るということ」の一節を以下に紹介したい。
「そこには常に、読者という第三者が存在している。閉じられた会話、密談というのではない。誰かに読んでもらうことを想定しながら、ひらかれた対話として、対談は行われている。第三者の存在は、対話の質を大きく変える。その意味で、『オープンダイアローグ』という言葉が(フィンランドの特定の治療技法名として使われているが)、ぴったり当てはまる。ひらかれた対話は、読者との共同作品でもある」
ぜひ手に取ってお楽しみください。
(きたに・ようへい 日本評論社編集部)
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目次
序章 環状島とはなにか……宮地尚子
1 臨床における秘密と嘘―環状島から考える……(対話者)森茂起
2 こころの内海に潜る―スキーマ療法と環状島……(対話者)伊藤絵美
3 「ボーダー」・治療者・環状島……(対話者)林直樹
4 「被害」と「加害」の螺旋を超えて―『プリズン・サークル』から考える……(対話者)坂上香
5 トラウマと声・身体……(対話者)斎藤環
6 トラウマインフォームドケアと環状島……(対話者)野坂祐子
7 トラウマと依存症臨床の未来……(対話者)松本俊彦
終章 トラウマを語るということ……宮地尚子
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