
生活実感に根差して発想し、体温の宿った借りものではない言葉は色あせない――。
『新編激動の中を行く 与謝野晶子女性論集』は、歌人の与謝野晶子が大正時代に書いた評論をまとめた1冊だ。1971年の初版から51年ぶりに新版が刊行された。
編著者は女性史研究家のもろさわようこさん。2021年1月に書き下ろした文章で、100年近く前と現代の閉塞感を重ね合わせている。「閉ざされた状況にたじろがず真向い、自分を新しく創りだすことを通し、状況を拓いていった晶子に学び(たい)」。社会的・文化的に強制される「第二の性」として生きざるを得なかった時代に、晶子がそれを拒否し、暮らしの中で男女平等、ジェンダーフリーを生きることを説いたことに共感する。
新編では、恋愛や結婚・出産など個人的なことを主とした旧版第3部を入れ替え、第1部とした。取材に応じたもろさわさんは書面にこうつづった。「社会問題より以前にまず自分のありようを自省厳しく問い、実践の中で自分を新しくすることが社会を新しくすることに続いていると認識している晶子の生き様は、新しい言葉を商っても、自己革新していない人々が一般的であるなかで、さすがだと思いました。自分のありようを自省厳しく問題にしなければ、言葉に生命が宿らないことをうなずいている私のありようが、晶子のありようと重なり、入れ替えてよかったと思いました」。新編第1部の「人生が考えを生み、その新しい考えがさらに新しい人生を生んで変化し推移します」(考える生活)という言葉は、二人の生き様を反映しているように思える。
この4月、沖縄に暮らすもろさわさんを訪ねると、部屋には『99%のフェミニズム宣言』をはじめ最近のベストセラーが置いてあった。これを見て、新編で新たに収録された「与謝野晶子をとおして女たちの反戦を考える」の一節を思い出した。日露戦争中に反戦詩を書いた晶子が、1930年代には戦争を賛美したと批判し、次のように続ける。「肉体は衰えてもその感性を衰えさせないためには、知性によって感性を磨きつづけるたえざる努力がいる」
もろさわさんは旧版出版の前年、『信濃のおんな』で毎日出版文化賞を受賞した。執筆や講演の依頼が相次ぐと、かつて軽蔑した問題を指摘するだけの評論家になってしまったと感じた。この反省から、自分が発した言葉をどう生きるか、今なお問い続けている。
ジェンダー平等を目指す途上の現代社会に響く、100年前の晶子の言葉。生活実感から生まれた「まことの心」が、時代を超えて二人の「ことば」の中に生きているからだろうか。読んでいると、もろさわさんの思想や生き方も鮮やかに浮かび上がる。 (かわはら・ちはる 信濃毎日新聞記者)
◆書誌データ
書名 :新編 激動の中を行くーー与謝野晶子女性論集
著者名:与謝野晶子著 もろさわようこ編集・解説
出版社:新泉社
刊行年:2021年3月31日
定価 :2300円+税
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
セクシュアリティ
くらし・生活
身体・健康
リプロ・ヘルス
脱原発
女性政策
憲法・平和
高齢社会
子育て・教育
性表現
LGBT
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