私たちはオリパラの中止を求めます

私たちはオリンピックの開催を中止すべく活動してきた、女性障がい者たちとその自立を応援する者たちの呼びかけ人です。
7月1日には菅首相や橋本聖子さん、また政党や報道関係に千名を超える賛同者を以ってオリンピック中止を求める声明文を送付しました。しかし開催は止まらず、予想通りコロナ感染は急激に拡大の一途を辿っています。
私たち4人の呼びかけ人は、オリンピックをなぜ中止すべきなのかのそれぞれの理由を持っています。1回目の声明文の時にはそれをまとめました。しかし、あまりにも愚かで深刻な現状を踏まえ、今回は一人一人が書くことにしました。
それはオリンピックの陰でコロナをはじめとする様々な理由で、命や暮らしを奪われている仲間たちとそこに連なる人々に厚い連帯と団結を送り、共に力となっていきたいと思うからです。

女性障がい者たちとその自立を応援する者たち

《呼びかけ人》
安積遊歩(自立生活センター札幌 理事)
中尾悦子 (自立生活センターリングリング 代表)
長位鈴子 (NPO沖縄県自立生活センターイルカ 代表)
藤原久美子(自立生活センター神戸Beすけっと 事務局長)


【安積遊歩】
私の父は日本兵として中国で加害者、シベリアで被害者を生き抜き、争うことの愚かさを体に刻まれた人でした。そして母も小作農の娘として、12歳から軍需工場で働きました。ですから両親は命の大切さ、自由の素晴らしさを徹底的に知っていました。彼らの口癖は「命以上に大切なものはない。そのために争いはしてはならない。」と言い、骨の弱い私の命を守り続けてくれました。その彼らが今の日本の現状を見たらどうするのかを考え続けています。
今の日本は戦闘機こそ空に飛んではいないものの、命より大事なものがあるというメッセージに晒され続けています。そんな中、人々は命に対する無関心に慣らされ、疲れ果て、オリンピックを止められないものと感じています。これは見えない銃弾、コロナウイルスを使っての無力感、不信感を政治に利用し続けていることの結果です。メダル競争を争って、命以上に大切なものがあるとマインドコントロールしようとしているオリンピック。治安維持法もないこの時代であれば政治を正し、人々の命を守るために私たちが声を上げよう、ともう一度声明文を提出します。
先回はまずオリンピックを中止することを求めましたが、今回はオリンピックの即刻の中止と、その後に続くパラリンピックの中止も、心から心から要求します。

【藤原 久美子】
コロナ禍下での東京オリンピック最中の8月3日、神戸地裁では優生保護法によって中絶手術・不妊手術を受けさせられた原告5名に対する判決が言い渡されました。
2018年1月に宮城県在住の知的障害女性が国家賠償請求訴訟を起こしてから、全国25名の原告が立ち上がりましたが、そのうち4名がすでに亡くなっており、一刻も早い解決が望まれています。しかし、結果はこれまで同様、不当判決でした。優生保護法は戦後の人口政策で、障害のある人を「不良な子孫」と位置づけ、約半世紀もの間、存在し続けた法律です。私は30代半ばで視覚障害者になり、その後妊娠すると中絶を奨められた経験から、この法律のことを知りました。当時、すでにこの法律は存在していませんでしたが、人々の心に優生思想を植え付けていることを実感しました。
そして着床前検査・出生前検査といったごく一部の障害の有無を調べる生殖技術は、すでに今拡大しつつあり、優生保護法という法律がなくても、個人の自己決定の名の基に、障害児の出生を防止していこうとしています。商業化された生殖技術は、障害のある赤ちゃんを産むことへの不安を煽ることで受検者を増やそうとしています。そのことが障害者に対するネガティブ・キャンペーンとなり、原告たちや子どもを産んだ障害のある女性に対し、ネット上で「自分のこともできないくせに、税金を使って育てるのか?」「障害者の子どもはろくな人間に育たない」といった誹謗・中傷が、後を絶ちません。
このように、私たちは存在そのものを否定されがちであることから、医療ひっ迫によるトリアージに対しても、命の危険を感じています。
感染拡大は多くの税金投入を伴い、医療現場や人々の心を疲弊させていますが、その一端を担う東京オリンピックには、国は一切言及しません。優生保護法が憲法違反だったと明白だったにも関わらず、真摯に反省することなく、また司法も時間の経過を理由に、原告らの訴えを退けるというこの日本において、この感染拡大の責任はおそらく誰もとらないでしょう。
コロナ禍は平常時からあった様々な問題をあぶりだし、DVや虐待の深刻化や非正規雇用問題など、特に弱い立場に置かれている人々に多大な影響を与え続けています。東京オリンピック・パラリンピックの開催費用は、人々の生活と命を救うために使うべきです。
私は多くの仲間と共に、開催継続を強く反対します。

【長位鈴子】
コロナ感染が全国的に爆発的に拡大していることに恐怖を感じながら生活をしています。沖縄県は今朝からNHKテレビでテロップで地区ごとの感染者数、年齢別、注意事項など細かな情報が流れ始めました。「海外ではロックダウンの状態で、家族内の食事、外出を控えてください。」 このような県からアナウンスは台風時以外に見たことがありません。 
これからパラリンピック開催に向けて中止の声明を出す必要を、地域で生活している障害当事者として強く求めます。一人ひとりの努力だけでは感染拡大には限界があります。多くの離島をもつ沖縄で高齢者も若者も安心して暮らすためには、まず飛行機利用者を止める必要があります。
①観光をロックダウンすること
②医療従事者の安全を確保し、業務に専念できなければならない
③在宅ワークのできない職種が多い
④離島を含め医療体制が十分でない
上記を改善しない限り、感染者はますます増えると思います。海外から持ち込まれる変異コロナを早急に止めるためには、オリンピックやバラリンピックを中止しなければ、国民や県民だけの努力義務だけにはしてはいけません。
官僚に勇気ある決断を求めます。

【中尾悦子】
私は24時間介助をつけて、地域で自立生活をする立場から、今すぐオリパラを中止することを求めます。
感染が拡大する中、政府は「自宅療養」の方針を打ち出しました。自宅で療養して大丈夫な保障などどこにもなく、ただ医療機関の受け入れがないという理由で、感染しても家に放置するという方針は、国が国民を見捨てたということに他なりません。これまでに、国は既に多くの人々を見捨ててきました。精神病院で患者が感染しても専門病院に移してもらえなかったり、クラスターの起こった介護施設の中に高齢者が取り残されるケースも多発しています。
私たちのような在宅の障害者も、感染したときに入院できるかどうかわかりません。もしも、自宅療養ということになれば、日常の介助を担っている介助者が防護服を着て介助をすることになります。しかし、介助者一人一人にもそれぞれの事情があり、小さな子どものいる人、高齢者と同居している人、副業で別の介助の仕事をしている人など、リスクのある介助を引き受けられない人もいます。そうなると、限られた人数で、24時間の介助をまわしていかなければならず、現場の疲弊は想像に難くありません。また、障害者もできるだけ介助者との接触を減らすために、トイレや水分補給、体位変換という命にかかわる重要な介助も、我慢して最小限におさえないといけない状況です。必要な介助なのに、それを削らないと障害者と介助者の命が守られないのです。そんな恐ろしい事態に陥らないために、私たち障害者も介助者も、自らが感染しないように、細心の注意を払って、日々、不安を感じながら暮らしています。
そんな中で、政府は多くの反対を押し切ってまでもオリンピックを断行し、国民をお祭り騒ぎの渦に巻き込み、緊張感を解いてしまいました。オリパラという国家事業を、個々の命や暮らしよりも優先させたのです。
私の姉は、1964年の東京オリンピックのときに予防接種で亡くなりました。1歳でした。海外から多くのお客さんを迎える国家事業を控えて、すべての子どもは予防接種を受けないといけないと言われ、個人の事情は無視されて、集団で予防接種を受けたのでした。大多数の人に楽しみを提供するために、国家の力を国内外に知らしめるために、姉の命は犠牲になりました。今回も同じく、一人一人のかけがえのない命が名前を呼ばれることもなく次々と犠牲になっています。この国は、同じ過ちをどれくらい繰り返すつもりなのでしょう。
第二次世界大戦をひきおこし、途中で引き返す決断が出来ずに、さらに多くの犠牲者を増やしたあのときと、日本は何も変わっていないのではないかと思います。あの悲惨な戦争から何ひとつ学ばなかったのでしょうか。戦後、国家はひたすら経済成長を優先させ、能力主義を徹底させ、優生思想を根づかせてきました。その結果、この社会には、要る命と要らない命があるかのような考え方が蔓延していて、それを見せつけられるたびに絶望を感じます。
それでも、私たちが絶望にからめとられて何も行動しないことは、国家にとって都合の良いことでしかありません。だからこそ、私は言い続けます。
オリパラを今すぐ中止にし、私たちの命と生活を守ってください。