(村松泰子さんよりいただきました)


「井上輝子さんのジェンダーとメディア研究と活動」       村松泰子

井上輝子さんは、日本の女性学のパイオニアで、幅広いお仕事をされましたが、その研究の一つの核は女性雑誌を中心とするメディア研究でした。その分野での研究と活動の一端をご紹介したいと思います。

私が、井上さん最初にお会いしたのは大学時代。2学年上の井上さんは院生で、女性問題の研究会について紹介してくださったのですが、当時の私は、あさはかにも「女も男もない仕事をしたい」などと、思っていてそのままになってしまいました。
その後、私は、メディア研究からスタートしてジェンダーに出会いましたが、80年代に入ってからでしょうか、ジェンダーとメディア分野の研究や活動を井上さんとご一緒する機会が増え、5人くらいの女性たちと定期的に読書会や研究会のようなものをしていました。ユネスコのマクブライト委員会報告の「コミュニケートする権利」や、キャサリン・マッキノンの反ポルノグラフィ条例制定運動なども、ここで学びました。
1995年の北京会議のNGOフォーラムでワークショップを開催することになり、それを機にGender & Communication Network-Japan (略称GCN)と名乗ることにしました。その頃文章化したものによれば、GCNは「ジェンダーとコミュニケーションの現状に問題を感じ、変革をつくりだすための活動として、研究・調査・教育・ジャーナリズム活動をおこなう人たちのネットワーク」であるとしています。
北京会議では、ワークショップ「商業化するフェミニズム:メディアのなかのジェンダーとセクシュアリティを読む」を開催し、井上さんは「雑誌広告を読む」を発表。ほかのメンバーが「セーラームーン」やテレビCMのジェンダー分析などを報告し、最後に参加者一同で「日本のメディアと政府に向けた提言」をまとめました。
GCNはその後もずっと続いており、今は世代交代して林香里さん、四方由美さんなどを中心に活動しています。
かつてのGCNで、井上さんとともに中核的な役割を果たしたのが鈴木みどりさんです。日本に「メディア・リテラシー」という考え方をいち早く正しく紹介した鈴木さんは、2006年7月に亡くなられてしまい、今年が没後15年ということで、法政大学のジャーナルで特集号が予定されています。この特集号には井上さんも寄稿される予定だったのですが、それがかなわなくなったとの連絡が入ったのが7月中旬でした。
鈴木さん追悼でGCNのことを書くと、ほとんどすべての活動が井上さんもともにしたことであり、どのように分担して書くかご相談したいと思いながら、お電話を差し上げずじまいになってしまったことが悔やまれます。ご相談できないまま、これは私がきちんと書かねばと思い書き上げた原稿を、8月初めに急いで井上さんにお送りしたのですが、間に合わなかったと思います。まさか、こんなに早く逝かれてしまうとは思っていませんでした。
鈴木さんはFCT(はじめは「子どものテレビの会」、のちに「市民のメディア・フォーラム」)の代表で、fct GAZETTEというデータバンク的ニューズレターを刊行していました。このGAZETTE をWANのミニコミ図書館に入れてくださったのは、井上さんのお声かけによってだったと聞いています。
鈴木さんは「鈴木みどりメディア・リテラシー研究基金」を残され、その選考委員として、井上さんと加藤春恵子、隅井孝雄と私の4人を指名されていました。そして、2006年から10年間毎年年末に選考委員会が開かれました。選考基準としては、鈴木さんのクリティカルなメディア・リテラシー概念に一致した問題意識であるかが重要でした。口火を切るのはたいてい井上さんで、静かな口調で、けれども、核心をついた評価をされるのが常でした。
この選考委員会の終了後は選考委員のうちの女性3人で会食し語り合うのが恒例でしたので、その後も年に1度はと言っていたのですが、コロナ禍でここ2年は実現することができませんでした。
最後に直接お会いできたのは、2019年10月のWAN主催のシンポジウム「女性解放を目指した先輩たちと出会う」の際でした。井上さんから、『日本婦人問題懇話会会報アンソロジー:社会変革を目指した女性たち』はご恵贈いただいており、またWANからの依頼で書評を書かせていただいていたのでした。
そして、今年に入ってからは1月に北京JACのオンライン学習会で、お元気そうなお顔を拝見しました。あのいつもの笑顔を忘れません。
ほんとうに長い間、いつも、何歩も前を歩かれて、私たちを引っ張ってくださった井上輝子さんとともに活動させていただけたのは幸運なことでした。ありがとうございました。

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井上輝子さん追悼 WAN掲載記事 https://wan.or.jp/article/show/9659
みなさまからの追悼のお言葉は以下にも掲載されています。
①https://wan.or.jp/article/show/9660
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