『お勧め文献』



  東京医大入試差別訴訟の尋問期日が2021年12月15日と2022年1月14日に予定されている。受験生だった女性達が、公正だと信じていた入学試験で、女性だというだけで差別されるという、尊厳を蹂躙された経験について、自らの言葉で当事者として語る、とても重要な期日である。 医大入試差別が大きく報じられていた頃、ここまで明白にわかりやすい性差別もないのに、「これは合理的なんだ」「女性は妊娠出産で仕事をセーブしたりやめたりするから」と、性差別であること自体を否定するような言説がそれなりの数、ネット上で見られたことにはうんざりしつつ、つくづく根深い問題だと感じた。
「それは差別ではない」と差別を否定することは差別への無理解であり、性差別の度合いが強い社会であるほど、「これは性差別だ」と理解されがたいということなのだと思う。
どうしたら、性差別を見たときに正しく「それは性差別だ」と認識できるのだろうか?
*性差別を認識するとき
 私はキーワードは「マジョリティとしての特権の自覚」だと考えている。上智大学の出口真紀子教授は、「マジョリティの特権」について、「マジョリティ性を多く持つ社会集団にいることで、労なくして得ることのできる優位性」 と述べる
(差別や人権の問題を「個人の心の持ち方」に負わせすぎなのかもしれない。 「マジョリティの特権を可視化する」イベントレポート | こここ (https://co-coco.jp/)。誰でもマジョリティとしての側面とマイノリティとしての側面の両方をあわせもっている。そして、出口教授の喩えによれば、その「マジョリティの特権」は自動ドアのようなもので、マジョリティの前では勝手に開いてくれるのでマジョリティはドアの存在自体意識しなくて済むが、マイノリティの前ではドアは閉じていて、鍵がないと開かないし、まず鍵を探すところから始めないといけなかったりする。そのように、マジョリティにとっては気づくことも意識することもないようなことにいちいち足止めさせられてしまうのがマイノリティとしての経験である。私は性差別問題ではマイノリティだが、例えば同性愛者差別、外国人差別、障害者差別、トランスジェンダー差別などの問題ではことごとくマジョリティ側である。殊更に差別しようとしてきたつもりはないが、しかしマイノリティが日常的に大なり小なり受けている抑圧には私はやはり当事者ではないのでなかなか気づけない。そのように、「自分には見えづらいものがある、自分が傷つかずに済んでいることに傷つきながら過ごしている人たちがいる」ということを、全ての人が意識的に考えようとすることが差別解消のためには必須ではないだろうか。
性差別について語ると、なんだかそわそわしたり、怒られるんじゃないかと思ってなのか妙に警戒/萎縮して身構えたり、「でも女性専用車両とかレディースデーとか、女性のほうが得してることもあるよね」「痴漢も問題だけど、痴漢えん罪もよくないし」など明後日の方向に話をそらし、女性差別について語ることを避けたがる人もいる。そういう男性には、「別にあなたが差別をしたと怒っているわけではない」「どうしても居心地の悪い気持ちになってしまうのかもしれないが、でもその居心地の悪さには慣れてほしい」と伝えたい。これについては、ぜひ、メロディ・ホブソン氏によるこちらのスピーチを聴くことをお勧めしたい。人種差別がテーマの動画だが、あらゆる差別について、マジョリティとマイノリティが一緒に動くことの意義とそのために必要なことを考えさせられる。
https://digitalcast.jp/v/19983/

*ブックガイド
マジョリティの特権について考えるためのブックガイドとして以下の3冊を挙げておきたい。
①「これからの男の子たちへ 「男らしさ」から自由になるためのレッスン (太田啓子著/大月書店)

②「女の子だから、男の子だからをなくす本」   (ユン・ウンジュ著 すんみ訳/エトセトラブックス)

③「差別はたいてい悪意のない人がする」   (キム・ジヘ著 ユン・イキョン訳 大月書店)

①は僭越ながら拙著である。次世代の男の子たちが、性差別を「女性の問題」にせず、男性だからこそマジョリティとして性差別を無くそうとする大人に成長してほしいと願いを込めた。
②は韓国で出版され、イラストが豊富で文章が平易で子ども向け絵本の体裁だが、大人こそ読むべきだと思う。「あなたはどちらがわにいるかを知ろう」「明るくて、大きくて、強いがわに絶っていると、くらくて、小さくて、弱いほうがどんなことにあっているか見えづらいんだ」という説明は素晴らしいと思う。
③は最近翻訳出版された。タイトルだけで既にうなずいてしまうが、韓国で16万部売れたベストセラーだそうだ。読み進めると、脳内で言語化されないままモヤモヤしていたものに言葉が与えられて輪郭が明瞭になったように感じる名著である。

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