秋色の公園





*東京医大との和解が成立
 当弁護団による東京医大訴訟であるが,この夏(2021年夏),東京医大と原告11名との間で訴訟上の和解が成立し,訴訟の一部が終了した。
 我々は,原告団が統一的に和解をするのか,しないのかの岐路に立たされていた。「この訴訟は,判決をもらうこと自体に社会的意義がある。」という意見も強く主張された。
 もっとも,原告には各人ごとにいろいろな事情があった。例えば当職の担当する原告は,別の医大に進学していよいよ高学年となり,日々の実習や医師国家試験対策などで多忙を極めている様子であった。
 ほかにも,「ここで一区切りつけたい。自分の進路に集中したい。」という原告が複数おられ,その意向は尊重されるべきであると我々は判断した。
 残りの原告については,引き続き東京医大との訴訟を係属していく。
 今後,尋問期日を2回に分けて行う予定である(1回目:2021年12月15日午後1時15分~,2回目:2021年1月14日午前10時~)。
 原告団から数名の方が,匿名であるが法廷での尋問や意見陳述を行い,思い思いに裁判官に向かって「こんなにひどい女性差別をしている入試と知っていたら,受験しなかった。」「失われた時間を返してほしい。」などの意見を訴える予定である。
  また弁護団では,被告側の証人として東京医大の元学長である鈴木衛の出廷を求めている。いずれも東京地裁601号法廷で行われる。今後も引き続き,皆さまからのご支援をいただきたい。

*順天堂医大への訴訟は終結見込み
 順天堂医大との和解は現時点ではなく,原告らは尋問に代えて陳述書を提出する。令和3年度内には,東京地裁での審理が終結する予定である。

*聖マリアンナ医科大学への訴訟
 当弁護団が重視していることの一つが,聖マリアンナ医科大学の態度である。聖マリアンナ医科大学は2020年秋より文科省の第三者委員会により得点調整の可能性が指摘されており,さらに令和2年度(2020年度)からの私立大学経常費補助金が50%も削減されている。しかし聖マリアンナ医科大学は,いまだに「性別による一律の不利益取り扱いはなかった」と反論している。
 当時(2020年秋)の文部科学相(萩生田光一)も聖マリアンナ医科大学の態度について,「毎年,毎年,毎年,偶然,偶然,偶然,偶然。ちょっと理解できない。」と指摘していた。
 ところで,聖マリアンナ医科大学が取った対応は,「平成27年度~平成30年度の受験者(入学者及び入学辞退者)への入学検定料を任意に返還する」ことであった。
 聖マリアンナ医科大学側は,入学検定料の任意返還について,「意図的ではないにせよ,属性による評価の差異が生じ,一部受験者の入試結果に影響を及ぼした可能性があった」と説明する。(平成27年度から平成30年度までの本学一般入学試験出願者への入学検定料等相当額の返還について(お知らせ)|ニュース|聖マリアンナ医科大学 ( http://www.marianna-u.ac.jp/univ/news/20201210_01.html )
しかし,「意図的でない属性による評価の差異」は,どのようにしたら毎年毎年,偶然生じるものなのだろうか?
 そもそも,大学側が公正な入試をしたことに自信があるのであれば,受験者に入学検定料を返還する理由はないはずで,極めて苦しい説明である。

希望は果てしなく

*東京都立入試における男女別定員制,段階的に解消の動き
 この弁護団通信でも以前からお伝えしたが,我々は「都立高校入試のジェンダー平等を求める弁護士の会」をスピンオフで立ち上げた。すでに都教委と東京都に意見書を提出している。
 これを受けた東京都教育委員会(都教委) は,2021年9月24日,検討委員会を設置して,2022年度入学者選抜以降について,「段階的な見直しを図る」と発表した
 都教委の試算によれば,都立高校の入試が男女合同定員に完全移行した場合をシュミレーションしたところ(実施年度は未定),全体では女子の合格者が今年度よりおよそ600人増え,男子の合格者はおよそ600人減少すると見込まれるとのことである。
令和4年度東京都立高等学校入学者選抜検討委員会報告について|東京都教育委員会ホームページ (https://www.kyoiku.metro.tokyo.lg.jp/press/press_release/2021/release20210924_04.html )

*差別的な医大入試訴訟について思うこと
 私事で恐縮であるが,筆者自身の娘(現在小学5年生)も,「将来,医師になりたい」と言っており,中学受験を最初の目標に据え,親子一丸となって七転八倒する日々である。
 医学部入試において男性を多く合格させていたというこの問題が浮上した当時,「必要悪ではないか?」という意見もあったと聞いている。その根拠として,「女性医師は産休や育休があるから夜勤が出来ない。」という説明があった。しかし,それは本当にマジョリティ側の理論,医師をモノとして捉えている理屈だと筆者は思う。
 つまり,女性医師だけが育児をするという前提自体に疑問がある。男性医師は育児に関わってはいけないということなのだろうか。あるいは医師だったら長時間労働が当たり前ということなのだろうか。時代錯誤も甚だしい。
 そもそも医師のワークライフバランスの問題については,性別以前に構造的な問題がある。例えば医療スタッフの絶対数が足りないのではないか?そして現場での長時間労働が前提となっているからこそ,診療科の男女比が偏っているのではないか? また優秀な人材は日本の医療業界に早々に見切りをつけて,海外に流出しているのではないか?などなど,手つかずの負のスパイラルがあるように思う。
 ワークライフバランスの問題は,男女の医師で,時には女性医師同士で,医療業界全体が当事者として知恵を出し合って解決すべき問題である。その際に,医師であっても,性別に関係なく一人一人が生活者であるということを忘れないでいてほしい。
 一点の差が受験者の人生を変える入試の世界に,実力以外の物差しがあってはならない。差別のない大学入試を。娘の勉強する横顔を見ながら,日夜そんなことを思う。

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