私の裁判記録ファイル
1 東京医科大学に対する訴訟の原告本人尋問手続(一部)を終えて
2021年12月15日、東京地方裁判所にて、原告4名について尋問手続が行われました。
尋問手続は、民事裁判で、原告の請求が認められるために必要な事実のうち、客観的な資料では証明できていない部分について、人の証言を証拠とするための手続です。
原告側が今回の尋問手続で証明したかった事実は、
・原告が東京医科大学を受験するに至った経緯・状況(医師を目指した理由、東京医科大学を志望校とした理由、どのように受験勉強に取り組んで受験したかなど)
・不正な得点操作(女子受験生を一律に不利に得点操作すること)を知った時の気持ち
・不正な得点操作がされると知っていたら,東京医科大学を受験しなかったこと
です。
原告4名は現在、やむをえず医学部ではない学部に進学した方、すでに医師として働いている方、他大学医学部に在籍している方々で、なかには,不正な得点操作がなければ東京医科大に合格していた方も含まれていました。
2 原告Aさんの尋問手続について
私が担当する原告Aさんも、今回、尋問手続に臨みました。
Aさんは、浪人生だった2014年に東京医科大学を含めて何校かの医学部を受験し、東京医科大学には残念ながら一次試験で不合格となったものの、最終合格した他大学の医学部に進学し、もうすぐ医師国家試験に臨む方です。
学校生活や就活などで多忙にもかかわらず、尋問手続に応じたいということで、私とも何度か打合せをして尋問事項を確認し、何をどのように答えると具体的事実に沿っているか、証明したいこととの関係で効果的かといったことなどを一緒に検討し、尋問手続の流れの確認や練習をして,当日に臨みました。
Aさんには,医師を目指した理由を家庭環境等と関連づけて話すこと、東京医科大学を志望したのは歴史が長く医学教育に定評があったためであること、合格したら入学していた可能性があったこと、医学部受験の勉強にいかに多くのものを費やして高校時代と浪人時代に真摯に勉強に取り組んだか、東京医科大学に特化した受験対策もしたこと、医師になる夢を実現させようと物心両面で支えて応援してくれた親御さんの状況、受験前に東京医科大学の試験で不正な得点操作がされると知っていたらそのような大学でフェアな医学教育を受けられるとは考えられないため東京医科大学を受験しなかったこと、その分、他校を受験する機会を失ったこと、報道で不正な得点操作を知ったときの衝撃や苦痛、公正な入試選抜が行われるとの信頼を裏切られた憤り、などを証言してもらいました。
Aさんにとって,東京医科大学の受験は約7年前のことで、受験勉強に取り組んだ期間はさらにそれ以前のことなので、細かい事実を思い出すのは大変だったと思いますが、客観的事実と異なることを証言してしまうことがないように、また、相手方からの反対尋問にも耐えられるよう、慎重に思い出してもらい、証言内容を確認していきました。
当日は、他の原告の方たちと同様、Aさんも、自分の言葉でしっかりと証言され、被害を受けた当事者としてだけでなく,後進の女子受験生のためや,多様な患者さんと接するあるべき医療のためにも,この裁判を通じて,入試で女性を一律に不利益に扱うという不正をただし,公正・公平な入試選抜により医療者を養成する大学や社会でなければならないという真摯かつ強い思いが,ストレートに伝わってきました。
被告の東京医科大学からの反対尋問は全くなく、裁判所からは、Aさん以外の原告に受験日の試験会場への交通費を確認する程度の補充質問にとどまっていて、原告側としては,若干、拍子抜けしました。被告の東京医科大学は、性差別を内容とする不正な得点操作を行ったうえに、訴訟手続の過程で、原告の皆さんに、さらに苦痛や被害を被らせる印象を与えるのは避けたいとの方針だったかもしれません。
3 尋問手続を終えたAさんの感想
私は今回,尋問手続に参加させていただきました、現在は他大学の医学部に通う6年生です。東京医大は2014年度に受験して,1次試験で不合格でした。
今回、個人では訴訟に踏み切るにはハードルは高く、自身の力で最終的にどうにかするしかなく孤独な戦いとなりがちな裁判という手続に参加でき,クラウドファンディングに名乗りを上げてくださった方々、共に闘ってくださっている弁護団の方々にまずは心から感謝を申し上げたいです。
尋問当日は、私以外に尋問手続に臨まれた3人の原告のお話を聞いて、自身の体験に重ね合わせて、また自身も経験したことのないような苦しみをお話から感じて、胸にグッとくる、涙を堪えた場面もありました。同時に,様々な事情や背景ではありますが、同じ気持ちでその場に立てているということがとても心強くもありました。実際に皆さんとお会いして,尋問に参加できて良かったと,改めて,また,より一層感じた1日でした。
今回の不正入試の問題は,東京医大だけの問題ではなく、社会からの無言の期待、圧力があって起こってしまったという面は少なからずあり、医師の偏在を解消したり、医療サービスについて再検討したりしなければ根本的な問題の解決にはなりません。
一部に医師の過労死ラインを超過するような働き方、医療サービスへの過剰な期待が存在し、体力、忍耐力のある方が多いと感じる医師の中にも(私は違いますが…)、男女関係なく心身の健康を害され、医学部入学後も退学になってしまったり、休職、退職されたりする方も少なからずいらっしゃいます。医師もひとりの人間であることを医療業界自体が改めて認識しなければならないのではないかと思いました。
医療サービスにおいても、過剰な医療により寿命を伸ばすことだけが幸せとは限らず、例えば寝たきりの高齢者が極めて少なく、高福祉国家、幸福度の高い国として知られるスウェーデンでは,胃ろうは虐待である(非倫理的)と言われるように、長期間の延命治療は本人、家族、社会にとって不要な負担を強いるだけだと結論付ける国も多数あります。
このようにまだまだ日本の医療が改善される余地は残されており、医師の養成や選抜にあたって,女性差別という安易な手段を取るのではなく、医学部入試を行う大学や国,そして社会でも持続可能なシステムを考え続けてほしい、そして二度と,私たちのように苦しい、悔しい思いをする受験生が生まれないように自身も考え続けていきたいと思います。
最後に、様々な事情で既に解決された方もいる中、私の意思を尊重して、お忙しいにも関わらず、いつも寄り添い支え続けてくださった担当の横地弁護士には感謝の気持ちでいっぱいです。今回の弁護団の方々のように、困っている時に本当に助けとなれる医師になりたいと改めて感じました。私自身はどんな結果であれ、今回尋問に参加できたということ自体がこれからの人生にとって大きな財産となりました。
未だ少し先にはなると思いますが、皆さんにとって良い知らせ(判決)が来ることを願っております。
4 次回の尋問手続
原告のうち1名については,今回は都合が合わなかったため、2022年1月14日午前10時から、東京地方裁判所610号法廷にて、尋問手続を行うことになりました。
たくさんの方々に傍聴して頂くことで,裁判官にも,被告にも,この裁判の社会的意義の大きさと,注目されているのでしっかりとした判断してほしいとの思いを伝えることができます。ぜひたくさんの方に法廷に傍聴に来て頂き,尋問の様子を見守り,応援して頂ければと思います。
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