
「生殖技術の進展は女性や社会・文化に何をもたらしたのだろうか。この技術が現在または将来、いかなる課題や可能性をもたらすのであろうか。そして、この技術が存在するいま、どんな社会を築いていけば良いのだろうか」。冒頭にこう書いた拙著『生殖技術?不妊治療と再生医療は社会に何をもたらすか』の出版から10年が経つ。私なりにこの問いに答えようと努力し、インタビューをしたり、情報を集めて、考察を重ねた。しかし、この10年で生殖技術はさらに進展した。
第三者がかかわる生殖補助技術(ART: Assisted Reproductive
Technology)は、不妊カップルが子どもをもつための医療、つまり不妊治療という位置付けを越えて、シングルのまま、または同性カップルの人たちが、自分たちと何らかの生物学的つながりのある子どもをもつのを可能にした。
それも、生殖補助技術と胚や胎児の遺伝学的検査と形態学的検査は、ほとんど連続して実施され、一体化しつつある。染色体や遺伝子の検査と選別、精度が高い超音波で見られる胎児の身体の状態の検査は、10年前には深くは取り上げなかったが、10年前と同じ問いに応えようとするなら、いまは避けては通れない。
この問いに応えようとすると、私がこの分野を学びはじめて30年のあいだに出会い、インタビューに答えてくれた人たちのことを思い出す。
不妊治療をして子どもをもった人ともてなかった人、特別養子縁組をした人。匿名の精子提供によって生まれて自分は何者かという答えを探しつづけている人、他人が子どもをもつために自分の卵子を提供した人、海外で卵子を提供してもらって出産した人、卵子提供と精子提供を受けて生殖補助医療で子どもをもったシングル女性、代理出産と卵子提供で子どもをもったシングル男性、精子提供を受けて子どもをもった女性同性カップル。
また、NIPTやその他の出生前検査を受けてから出産した人、生まれてすぐにお子さんを亡くした人、出生前検査を受けない選択をした人。
出会った人が多くなった分、私の思考も深くなったと思いたい。10年前とは変化したところもあるだろうし、変化していないところもあるだろう。だからあえて、同じ問いに答えていこうと思う。
◆書誌データ
書名 :生殖技術と親になること――不妊治療と出生前検査がもたらす葛藤
著者名:柘植あづみ
頁数 :352頁
刊行日:2022/2/14
出版社:みすず書房
定価 :3960円(税込)
慰安婦
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