配偶者から暴力を受けた後に住まいを喪失し、母子世帯向けシェアハウスで暮らすシングルマザーと、新たな住まいを得て生活の立て直しをはかる男性ホームレス経験者に焦点をあて、貧困と居住不安との関係に着目し、住居喪失から新たな住居を確保し生活を再建するプロセスを明らかにする。
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本書は、日本社会において今日的な課題となっている経済格差の解消に資することを目指している。そのために、筆者は経済格差問題の中でも住居喪失にフォーカスすることとした。なぜ住居喪失なのかというと、それが生活に多大なインパクトを与え、生活困窮の原因にも結果にもなりうる現象だからである。本書では、住居を喪失する前から新たな住居を得て生活を立て直すまでの一連の過程を多面的に捉え、そのメカニズムを分析し生活再建に必要な新たな方策を検討している。
本書で研究対象としたのは、DV(ドメスティック・バイオレンス)被害者とホームレス経験者である。DV被害者の中でも、配偶者から暴力を受けた後に住まいを喪失し母子世帯向けシェアハウスで生活再建を試みるシングルマザーに調査協力していただいた。ホームレス経験者では、ハウジングファーストという手法によって住まいを得た単身の男性に調査協力していただいた。当事者以外にもシェアハウスの大家やシェアハウスで共に生活する居住者、ホームレス支援団体のスタッフの人たちという多くの人たちに、それぞれの立場から本研究にご協力いただいている。
DV被害者への調査は、母子世帯向けシェアハウスへ住み込むという形式の調査と当事者へのインタビュー調査という2つの手法で実施した。住み込み調査は2015年と2017年の2回に渡って行い、住み込んだ期間はそれぞれ2ヶ月程度である。ホームレス経験者の調査は、『ハウジングファースト東京プロジェクト』という複数の民間支援団体が連携して行う支援活動への参加(参与観察)をとおして行った。支援活動に参加する中で、当事者と支援スタッフにインタビュー調査にご協力いただいた。本研究では、こうした調査手法により当事者の生活史や生活再建の過程をホリスティックに理解することを目指した。
さらに、本書では、DV被害者支援、母子世帯向けシェアハウス、ハウジングファーストの各々の支援現場のキーパーソンに、新型コロナウィルス感染症の影響についてインタビュー調査を実施した。その結果を補足的に提示しているのでこちらもぜひご覧いただきたい。(「はしがき」から抜粋)
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目次
序 章 住宅確保要配慮者(住宅弱者)という視点
第1章 住宅政策・ホームレス・DV被害者支援のこれまで
第2章 母子世帯向けシェアハウスとハウジングファーストでの調査
第3章 母子世帯向けシェアハウスを選んだDV被害者
第4章 ハウジングファーストで住まいを得たホームレス経験者
第5章 生活再建には何が必要か
補 章 コロナ禍の支援現場の状況
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◆書誌情報
書名 :居住支援の現場から―母子世帯向けシェアハウスとハウジングファースト
著者 :杉野 衣代
頁数 :220頁
刊行日:2022/1/30
定価 :4,900円+税
出版社:晃洋書房