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長野ひろ子・姫岡とし子(編)『歴史教育とジェンダー-教科書からサブカルチャーまで』

2011.03.27 Sun

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.学生たちと話すと、高校での教育内容が彼らの歴史イメージの形成にいかに大きく影響しているかを痛感させられる。残念ながら、学校での現行の歴史教育から、女性やジェンダーについて知識を得たり、関心を抱いたりするのは難しい。本書の分析は、このことを如実に示している。

アメリカの教科書には、女性・ジェンダーに関する記述が豊富だ。それに較べて、日本の教科書は、ジェンダーへの配慮が乏しい。といっても、この間の女性史・ジェンダー史の膨大な研究成果がまったく教科書に反映されていないわけではなく、変化の兆しはあらわれている。ジェンダー関連記述が相対的に多いのは、受験とは無関係なAに多いテーマ設定型の教科書で、受験用のB、とくに受験界で定評のある教科書ほど、出来事を網羅的に伝える知識習得型の通史叙述になっている。

今回の分析で浮かびあがってきたのは、30年以上前にあたらしい女性史が鋭く告発した論点が教科書叙述に生かされていないことだ。Bの定型的な通史叙述では、あいかわらず政治史・事件史・偉人中心で、人類の半分をしめる女性の経験は不可視なままだ。用語法でも、「人」、「民衆」、「労働者」といった用語が男性中心に用いられ、女性の場合は、女性労働者と特記されて、「男性=一般、女性=特殊」の図式が再生産されている。多くの教科書に登場するキューリー夫人は、なぜマリー・キュリーではなく、夫人と書かれるのか。

本書の特色は、アメリカ、および日本の日本史・世界史教科書の詳細な分析にとどまらず、改善の具体的な提案をしていることだ。たんにジェンダーに言及する必要性を唱えるだけではなく、ジェンダーの視点を入れれば、どのように歴史像が変わるかを、奴隷貿易や古代ギリシャ社会などの例で具体的に示している。すぐに実施可能な改善策としては、用語法に注意するだけでなく、解説や注の充実による主体の明確化、トピックや特設ページの充実など。性や生殖の問題については、例えば「遊里」は町人文化展開の空間としか書かれず、「大奥」もセクシュアリティの問題には触れられないなど、タブー視や曖昧化が目立つので、正面から取り組むことを提唱している。

本書は歴史教育を学校だけに限らず、漫画や博物館などのサブカルチャーを含めて扱っている。サブカルチャーとしての分析にとどまらず、学校教育とシンクロする部分、学校教育について考えさせられる指摘が多い。少女用漫画では、男性用よりもフィクション依存度が高いが、それは、語られる/文字に残される名前のある歴史は男性のものだったからだ。博物館展示では、女性のゲットー化やステレオタイプの再生産が目立つが、ジェンダーの視点を入れた展示では、日常生活が全体史理解の窓口にもなっている例がある。

本書を編集して、歴史教育にジェンダーの視点を導入するには、歴史教育全体の変革が必要だということがあらためて明確になった。「歴史は暗記」という思い込みから解放され、歴史的思考力を身につけて時代変化を読み、歴史の多様性や複合性を理解し、現在のリアリティと歴史を結びつけることによって、はじめて「歴史のおもしろさ」がわかり、歴史を通じて主体的に学び考えることができるのだ。本書の随所で、そうした指摘が行われている。(編者 姫岡とし子)








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