2011.05.13 Fri
今ある命と同じくらい、これから生まれてくる命への配慮をすること。時間軸を内包したケアの広がりについて書かれた矢野さんのエッセイを読み、私も今生きている命、これから生まれてくる命、そして、今まで生きてきた人々に思いをはせながらこの文章を綴っていきたいと思います。
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時間、空間を超える物語として私の中で最も印象深いのが、萩尾望都の『銀の三角』である。音楽に長け、近未来を予知する特殊な能力を持つ「銀の三角」族。遥か昔に滅んだこの種族の伝説が微かに残る高度に文明化された社会。中央都市に属する人々はクローンとして何度も再生され、安定した生活を保障されていた。物語は、政府の社会管理部門に属するマーリーがある音楽と出会うことから始まる。今は失われてしまった古の音楽を追ううちに、「銀の三角」族の伝承と、古い音楽の歌い手である謎の女ラグトーリンにいきつくマーリー。折しも辺境の地では、若き王の下に、「銀の三角」族の風貌を宿す王子、災いの子が生まれようとしていた。
物語は3万年の時を、宇宙の星々を超えて錯綜し、無限の広がりをみせる。社会を不安定化させる要因としてラグトーリンを排除しようとするマーリー。目も見えず耳もきこえず話すこともできず、父王に殺され続ける王子。そして、父王に虐げられた王子が「銀の三角」族として発する最後の声、この声をくいとめ、世界をあるべき形にとどめようとするラグトーリン。物語は終盤意外な結末をみせるのだが、最後になってこれは喪失の物語なのだと気づく。失われし者たちを思い、過去とともに生きる物語なのだと。
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「喪失」は萩尾望都作品のキーワードではないかと思う。多くの作品で登場人物たちは物語の途中でなにかを失ってしまう。故郷を奪われた火星人を描いた『スター・レッド』もまた喪失の物語である。レッド・星(セイ)は地球で育てられたが、白い髪赤い目を持つ火星人だ。火星は最初地球からの移民の星であったが独自の進化をとげ、白い髪と赤い目で超能力を持つ火星人達の星になった。火星に再入植しようとする地球人と火星人との間におきた戦争から故郷を奪われ、火星の片隅に追いやられた火星人達。地球人の医師に拾われ地球で育てられたセイと彼らが出会ったとき新たな闘いが始まることになる。
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宇宙を安定化しようとし火星を危険視する他の惑星の委員会も登場し闘いは複雑な形をみせる。しかし、物語の中盤、あろうことかセイはその身体を失ってしまう。後に他者の肉体から幼子として産みなおされるセイはもはや以前のセイではなく、人々は失われたセイを思い、また失われし火星を思う。同じく火星が登場する近年のSF作品『バルバラ異界』の喪失も深い。子供を失った親の悲しみがあり、ありえたかもしれない未来を思わずにはいられない。
今回の震災で多くの方が多くのものを失った。全国から全世界から支援の手がさしのべられ、震災を教訓によりよい社会をつくっていこうというメッセージも盛んに流れている。しかし、私はまず、亡くなった方に哀悼の意をささげたい。そして、被災された方がご家族やご友人の死を悼み悲しむことができる環境をつくれるような支援ができたらと思っている。本当に募金ぐらいしかできない私ですが、そう思っています。
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