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[映画評]少女は自転車にのって 河野貴代美

2013.12.11 Wed

●main映画館自体の設置が禁じられている国、サウジアラビアで奇跡の映画が作られた。

監督はサウジ初めての若い女性で、一人で街を歩くことが禁じられ、女性に対する多くの規制がある国において、監督は車中に身を潜め、無線で指示を外に出しながら作ったという苦労作である。

試写を見終わって、すべての場面がサウジ国内で撮影され、出演者は全員サウジの俳優だという本作が自国で公開されなければ、作品の意味が半減するなあ、と思っていたら、国内で公開すべきかどうかの是非が新聞で取り上げられた、と言う。それにしても映画館がないのに、、、、、。

さて、物語である。

●sub310歳のワシダは、校長に嫌味をいわれながらも、スニカー、長い制服の下にはジーンツという活発でおてんばな少女である。女性校長はイスラムの戒律ばかりを言い、笑い声まで、男性に声が聞こえると注意する秘密警察のような人物。ワシダは学校の授業には興味もなく、コーランはちゃんと読めない。

彼女の家には働いている母親と、もう男の子を作ることは無理だと判断し、第二夫人との結婚を考えている父親がいる。壁に貼られた家系図には全く女性の名前がない。ワシダは自分の名前を貼り付けるが、誰かにはがされてしまう。

ワシダの男友達、アブダラはいつも自転車をのりまわしているが、ワシダはふと自転屋さんでみた緑色の自転車が欲しくてたまらなくなる。母親は、男の子と遊ぶことも自転車を買うことにもいい顔をしない。

●sub2でもワシダは、校長の注意や、母親の苦言をたいして気にする様子もなく、お金を貯めて自転車を買うことに集中しだす。秘密で上級生男女の仲をとりもったり、手作りのミサンガを学校で売ったり、と。そのうち学校でコーランの暗唱大会が行われることが決まり、賞金は自転車を買うに十分な金額。俄然はりきったワシダは立候補し必死で練習をする。そして彼女は優勝し、賞金を手にするが、「何に使うか」を聞かれて、うれしさのあまり、自転車を買うと公言してしまうのだ。驚いた校長に、それなら、福祉施設に寄付しなさい、と言われてしまう。

号泣するワシダ。しかし、第二夫人との結婚を決めた夫に愛想をつかした母親がワシダに自転車をプレゼントするのである。

イスラムの習慣のなかにいながらも、ワシダに未来の希望を託す母親。

自転車に乗ったワシダは、アブダラと自転車競走を仕掛け、、、、その先に見える広い空(世界)で、映画は閉じられる。

正直見ていて、うんざりする。どうしてこのようなの世界が存在し、それに多くの女性が従っているのか理解しにくい。

ワシダを好きな男の子、アブダラ(実にかわいい!)も成長すれば、イスラムの男になるのかしら、と勘繰ってしまいそう。

イスラム教のコーランには、ベールの着用を除いて、女性差別がうたわれていないと誰もいうが、現実は違うじゃないと抗議したくなる。女性の就労を支える環境は十分な変化を見せているとは言えないし、外出には、父親、兄弟、夫などの「保護者」が必要である。

しかし、監督の、「自国の文化を尊重しながらも、変化を受け止めみんなで知恵をだしあうべき」と言うように、たしかに一部の変化も起きているようだ。監督の勇気やワシダを演じたワアド(オーディションにスニカーをはき、ヘッドホンをつけて大胆な様子で現れた)に未来をたくして、それだからこそ本映画を多くの女性にみてもらいたい。

パキスタンで女性教育の必要性を唱えて、殺されかけたマララ・ユルフザイに重なるワシダのためにも、マララさんのためにも。

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タイトル:少女は自転車にのって

主演女優:ワアド・ムハンマンド(12歳)、リーム・アブドゥラ(母親)

監督:ハイファ・アル=マンスール

制作:サウジアラビア王国

コピーライト:© 2012, Razor Film Produktion GmbH, High Look Group, Rotana Studios,All Rights Reserved.

12月14日から2月7日まで、東京、神田神保町、岩波ホールにて公開。年末・正月の上映スケジュールについては

直接岩波ホールにお問い合わせください。

カテゴリー:新作映画評・エッセイ

タグ:女性政策 / 母と娘 / 性差別 / 河野貴代美 / 女性監督 / サウジアラビア映画 / ハイファ・アル=マンスール