ヒーロー物語が大好きだった女の子がなしとげたこと

 「女性に参政権を!」というワッペンを胸に微笑む女性は、イギリスの女性参政権運動を力強く牽引した活動家エメリン・パンクハーストです。10人きょうだいの長女で3歳から本の虫だったというエメリン。社会活動に熱心な両親の元、早くからアメリカの奴隷解放運動のために寄付を集めたり、困っている人を助けるヒーローの物語を読みふけったりする女の子でした。そんな彼女がリディア・ベッカーの講演を聞き、女性が参政権を獲得できるよう力を尽くす決意をしたのです……。

 子ども向けの絵本でエメリンが描かれ、邦訳されたのは、これが初めてとなります。イギリスでは小学生でも名前とその功績を知っているエメリン・パンクハーストですが、日本では、子どもはもちろんのこと、大人でも知っている方は少ないのでは? 2017年に日本公開された映画「未来を花束にして」で、メリル・ストリープがエメリンを演じ注目されはしましたが。 

 エメリンの幼少期から女性参政権運動を始め、第一次世界大戦中は女性の職業進出を促し、やっと権利を獲得するまでを描いたこの絵本は、シンプルな文章と可愛らしいイラストレーションが魅力です。しかし、これを6、7歳の子どもが自分で読み理解する日本語にするのは、大変なことでした。<遠い昔の知らない人のお話ではなく、自分たちの生活の礎につながる人だということを感じてもらいたい、社会が大きく変動する時代の有様を知ってもらいたい。そのためには誰に訳していただくと良いのかと悩み、お願いしたのが上野千鶴子さんです。絵本の訳出だけでなく、巻末に参政権とは何か、主権者であるということはどういうことなのか、を丁寧に書いていただき、イギリスだけなく日本の女性参政権運動についてもしっかり解説していただきました。その熱量高い文章は読者にきっと刺さるものと思います。

 この絵本が含まれるシリーズ「小さなひとりの大きなゆめ」は、姪のために読んであげたい女性のロールモデルを描いた絵本がないと感じた一人の女性が企画したもの。現在は80巻を超える人気シリーズとして世界中で翻訳されており、日本では本作を含め10冊が刊行されました。子どもの頃の思いや疑問を大切に育て、大人になって社会を変える行動をした人たちの姿から、読者である子どもたちも自分を信じる力や社会を変える勇気を得てほしいと思いながら編集しました。

◆書誌データ
著者・リスベット・カイザー文 アナ・サンフェリッポ絵 上野千鶴子訳
タイトル・『エメリン・パンクハースト (小さなひとりの大きなゆめ)』
定価・1980円+税
総頁・32頁
寸法・20.4 x 1 x 24.8 cm
発売日・2022年3月11日

エメリン・パンクハースト (小さなひとりの大きなゆめ)

著者:リスベット・カイザー

ほるぷ出版( 2022/03/11 )