◆生誕100年 鶴見俊輔を読み継いでいくために
今年6月、哲学者・鶴見俊輔(1922~2015)は生誕100年を迎えました。太平洋戦争後の1946年5月に雑誌『思想の科学』を創刊。以来、アメリカ哲学から限界芸術、マンガ論に至るまで幅広い著作活動を展開し、『鶴見俊輔集』(全17巻)、『鶴見俊輔座談』(全10巻)など膨大な仕事を残しました。その一方、60年には市民グループ「声なき声の会」を創設、65年にはベ平連に参加し、平和運動家としても活躍しました。
この大きな足跡を残した哲学者の全体像を捉えるのはとても難しい。そこで、いまあらためて鶴見俊輔を読み継いでいくために、数多い著作の中から『日本思想の道しるべ』『思想の流儀と原則』の2冊を編集しました。


『日本思想の道しるべ』は日本思想に関する文章をまとめたものです。鶴見は「わたしは思想を、それぞれの人が自分の生活をすすめてゆくために考えるいっさいのこととして理解したい」(「日本の思想百年」)と、丸山眞男に代表されるアカデミズムの手法とは一線を画し、独自のスタイルで研究を進めました。取り上げるのも田中正造に始まり、小泉八雲、民芸運動の創始者・柳宗悦、アナーキスト石川三四郎など多彩です。いずれの論考にも柔軟な思考と着眼の独自性が際立っています。
一方、『思想の流儀と原則』は同世代の思想家・吉本隆明との共著です。鶴見と吉本は1967年の最初の対談「どこに思想の根拠をおくのか」で、反戦運動のあり方や国家観などをめぐって激しく対立します。互いに妥協せず、徹底的に議論を戦わせています。その対談に至るまでに両者が何を問題とし、何を争点としてきたのか、さらにその後直接対話で何を論じたのか、一冊の本として提示してみたのが本書です。転向、ナショナリズムといったテーマごとに鶴見、吉本の代表的な論考を論争形式に交互に配置し、後半に対談3篇を収録しました。
最後の対談となった「未来への手がかり」(1999年1月)は単行本初収録です。前回の対談「思想の流儀と原則」から24年たち、76歳の鶴見と74歳の吉本は、ともに老年期を迎え、対談からは穏やかな空気が伝わってきます。ともに戦後という時代を歩んできた者同士の相手に対する信頼感があります。鶴見はいう――「私は最初、吉本さんの「大衆の原像」という考えがよく分からなかった。しかし、『最後の親鸞』という著作にその手がかりを読みとりました」。吉本は「鶴見さんが京都で何か考えているぜ、ってのがずいぶん気持ちの助けになってきました」と回想する。
かつて愛読した人にも、未読の人にも、鶴見俊輔の新しい思想の姿が届けられればと思っています。
◆書誌データ
書名 :日本思想の道しるべ
著者 :鶴見俊輔
頁数 :320頁
刊行日:2022/6/21
出版社:中央公論新社
定価 :2970円(税込)
書名 :思想の流儀と原則
著者 :<鶴見俊輔・吉本隆明>
頁数 :336頁
刊行日:2022/6/21
出版社:中央公論新社
定価 :2970円(税込)
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