
本書は、研究者を志し、研究をなりわいとする女性の「生きづらさ」について、執筆者7名が身をおく歴史学界および歴史学研究会(学会)を事例に検討したものです。
日本の研究者に占める女性の割合は、17・5%に過ぎず、OECD加盟国のなかでは最低水準にあります(総務省統計局「2021年(令和3)科学技術研究調査」)。これまでにも、「リケジョ」とよばれる理系分野における女性研究者の比率の低さが問題となってきました。しかし実は、人文社会系分野における「レキジョ」の比率の低さも負けてはおらず、生物・医薬・農学系分野に匹敵するほどの少ない比率です(詳しくは本書第三部参照)。
そこで本書においては、こうした比率の低さはなぜ起こるのか、これによってどのような問題が生じているのか、問題を解決するにはどうしたらいいのか、三部にわたって考察しています。
第一部では、人文社会科学系学協会男女共同参画推進連絡会(GEAHSS)、日本歴史学協会等の報告書をもとに、女性がキャリア形成やライフベントにおいてどのような壁にあたっているのか、ハラスメントの問題にもふれながら分析しています。
第二部では、編集委員の専門分野である歴史学の見地から、アカデミズムへの女性の参入や歴史学への女性の参入について記し、西洋史と日本史の分野から歴史学の中にひそむ男女不平等の背景を解説しています。
第三部では、歴史学研究会の男性委員をもまじえて座談会を行い、女性のキャリア形成について、ハラスメントについて、ポジティブアクションについて、男女双方の視点から今何が問題であるのかを率直に話し合っています。
本書を編むなかで、歴史学は政治を扱う「男性的な」学問であるとみなされてきたという史学史上の問題が浮き彫りになるとともに、とくに日本史分野においては女性研究者が「女性史研究者」の枠組においてのみ評価される傾向にあることなどが明らかになってきました。また座談会を通じ、ジェンダー平等は歴史学を真に豊なものにしていくうえで不可欠であることを改めて認識しました。
本書が扱っているのは、あくまで日本の歴史学界におけるジェンダーですが、さまざまな分野の学界や研究機関、さらには労働機関・組織においても共通する課題があるものと思われます。本書をお読みいただくことによって、少しでも女性の「生きづらさ」が払拭されていくことを願っています。
◆書誌データ
書名:『アカデミズムとジェンダー―歴史学の現状と課題―』
編者:歴史学研究会
著者:有信真美菜 大江洋代 清水領 芹口真結子 髙野友理香 寺本敬子 三枝暁子
頁数:172頁
判型:A5判
刊行日:2022/5/30
出版社:績文堂出版
定価:1980円(税込)
ISBN:978-4881161296
アカデミズムとジェンダー: 歴史学の現状と課題
著者:歴史学研究会編 有信 真美菜・大江 洋代・清水 領・芹口 真結子・高野 友理香・寺本 敬子・三枝 暁子 著
績文堂出版( 2022/05/30 )
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