月経をめぐる環境は,今,大きく変わろうとしています。
2013年,慶応義塾大学で開催された日本文化人類学会・研究大会で編者のお二人が出会ったところから『月経の人類学』はスタートしました。
パプアニューギニアの生理用品の普及とケガレ観の変容について研究発表された新本万里子さんに,ウガンダで月経研究を始めていた杉田映理さんが質問がてらの自己紹介,
その後,何度かのメールのやりとりのあと,夕食を一緒にされた中で話が盛り上がり,「いわば初デートで『いつか一緒に月経で科研をやろう』ということになった」(あとがき)のだそうです。
新本さんの研究発表の背景には,フィールドとされているパプアニューギニアでの,使い捨てナプキンの普及という社会的な変化がありました。
さらには,水・衛生の国際開発の分野でMHM=衛生的な月経対処が議論の対象になりアジェンダとなっていく大きな流れ,そして「持続可能な開発目標」SDGsが深く関わっています。
一方,欧米などに引き続き,日本においても,2018年ころから「生理」をオープンに語る動きが起こり,
さらにコロナ禍下において「生理の貧困」が社会問題視されるようになっています。
しかし,まだ変化の途上にあります。
「人類学」とか「開発支援」などとあると,発展途上国だけの問題のように思ってしまいがちです。
しかし,本書各章をご覧頂くと,月経/月経対処が,様々な領域の深部にかかわり,こうした世界的な大きなうねりの影響を受け,
わたしたちの"今"に地続きでつながっているということに,気づかれることでしょう。
本書が,読者の皆さんご自身の経験や,周りの状況を振りかえり,相対的に考えるきっかけになること,
また,月経対処の支援をする団体や,そうした立場の方々にとって,大きな示唆が得られるものになることを願っています。
◆書誌データ
書名 :月経の人類学―女子生徒の「生理」と開発支援
著者 :杉田映理・新本万里子 編
頁数 :304頁
刊行日:2022/6/15
出版社:世界思想社
定価 :3850円(税込)