
女性のメディア研究者(GCNメンバー)によるテレビ番組制作会社についての共同研究が『テレビ番組制作会社のリアリティ―つくり手たちの声と放送の現在』として出版された。
GCN(ジェンダーとコミュニケーションネットワーク)は、加藤春恵子、井上輝子、鈴木みどり、小玉美意子、村松泰子といったジェンダーとメディア研究者のフロンティアランナーたちが1990年代に立ち上げたネットワークである。彼女たちのバトンをつないだ現在のメンバーは、林香里・四方由美を共同代表に研究を続けており、本書はGCNによる前書『テレビ報道職のワーク・ライフ・アンバランス』(2013)に続く第2弾である。
テレビ業界の変化は大きく、現在の番組のつくり手はテレビ局より番組制作会社が中心になっている。その実態についてはある時期までほとんど注目されてこなかったが、2000年代に入ってから「映像コンテンツ」が商品として関心が寄せられるようになり、番組制作の実態にも目が向けられるようになった。「下請け取引の適正化」「働き方改革」の観点からは、「下請けへのしわ寄せ」「ブラック職場」など、ネガティブな意味で番組制作会社が注目を浴びるようになった。
特に厳しい状態に置かれるのは、若く最下位職であるアシスタント・ディレクターたちであり、2022年にはあまりにもイメージの悪いアシスタント・ディレクターの呼称をヤング・ディレクターやネクスト・ディレクターにしようという動きまである。現在の番組制作を底辺で支えているのが、非正規や派遣といった不安定雇用のアシスタント・ディレクターで、しかも女性が多い。
本書では、制作会社所属のアシスタント・ディレクター、ディレクター、プロデューサーといったそれぞれの職位にあるつくり手たちの「声」を聴くことにより、番組作りの諸条件が厳しくなるなかでのつくり手たちの奮闘ぶりや、サバイバルの様子、そして将来への希望などを読み解いている。テレビ制作の現場が現在抱える問題や、その背景にある放送業界の大きな変化を知り、70-80年代がいかに「テレビのよき時代」だったか、あらためて振り返ることにもなろう。
『テレビ制作会社のリアリティ』は、かつてテレビが好きだった人、いまもテレビを愛する人、そして、昨今のテレビに幻滅している人にも是非読んでいただきたい。
◆書誌データ
書名 :テレビ番組制作会社のリアリティ―つくり手たちの声と放送の現在
著者・編者 :林香里・四方由美・北出真紀恵他
頁数 :352頁
刊行日:2022/8/25
出版社:大月書店
定価 :2860円(税込)
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