
2022年9月9日 弁護団記者会見
■東京医大に対する判決、出る
当弁護団では、東京医大、順天堂大学、聖マリアンナ医大の三校に対して、それぞれ損害賠償請求訴訟を提起しましたが、初めての地裁判決となった2022年5月19日の順天堂の判決に引き続き、本日(2022年9月9日)午後1時10分から、一連の女性差別入試が発覚するきっかけになった、東京医科大学に対する損害賠償請求事件の判決が言い渡されました(平城恭子裁判長)。
判決時点での原告数は28名(全員女性)、請求額総額は1億5233万7671円でした。請求の内訳は、性差別入試を受験させられたことの慰謝料(受験慰謝料)が一人一年度当たり200万円、属性調整がなければ本来合格していた原告についての慰謝料(不合格慰謝料)が一人当たり500万、受験によって生じた入学検定料、交通費、宿泊費、また、属性調整がなければ本来合格していたのに属性調整によって不合格となったことで生じた経済的損害(浪人中の予備校費用、医師になるのが一年遅れることで生じた逸失利益、他大学に進学することで生じた納付金の差額など)などです。
東京地裁は、東京医大に対し、原告らへ総額1826万4603円を支払うことを命じました。
■属性による得点調整は許されない
判決は「被告は、本件大学の医学部医学科の入学者の選抜に当たっても、憲法並びに教育基本法及び学校教育法を始めとする公法上の諸規定の趣旨を尊重する義務を負う」と述べ、「本件属性調整は、本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試における入学者の選抜において、性別という自らの努力や意思によっては変えることのできない属性を理由として、女性の受験生を一律に不利益に扱うものであって、性別による不合理な差別的取扱いを禁止した教育基本法4条1項及び憲法14条1項の趣旨に反するものというべきであるから、『公正かつ妥当な方法』(大学設置基準2条の2)による入学者の選抜とは言えない。また、本件全証拠によっても、被告が本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試における入学者の選抜において本件属性調整を行ったことについて、合理的な理由があったものと認めるに足りる事情は見当たらない。」
と、属性による得点調整が許されないことをはっきり判示しました。この点は大変よかったと思います。
■認められたものの低廉な「受験慰謝料」
そして、判決は、東京医大の行為が不法行為にあたると認定したわけですが、その内容は「本件属性調整を行っていることを公表することなく、原告らに本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試を受験させた被告の行為は、少なくとも本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試を受験した原告らが自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害するものとして、原告らに対する不法行為に該当するものと認めるのが相当である」
と「公表せずに受験させたこと」が「選択の自由の侵害」だったと述べるのみで、属性調整自体が違法であると明言しませんでした。私たちの根本的な主張である「『性差別』が原告らの『人格権(人格的利益)』『平等権』を侵害するのだ」という点に向きあわなかった点は、批判せざるを得ない思います。
そして、判決は、受験生全員に対して「受験慰謝料」を認めたわけですが、
「原告らは、公正かつ妥当な方法により入学者の選抜が行われているものと信じて本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試を受験したにもかかわらず、平成18年度から平成30年度までの本件大学の医学部医学科の一般入試及びセンター利用入試における入学者の選抜において、合理的な理由なく女性の受験者を一律に不利益に扱う本件属性調整を行っていることを公表することなく、原告らに本件大学の医学部医学科の入学試験を受験させた被告の本件不法行為により、原告らが自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害されるとともに、本件大学の医学部医学科の入学試験の受験に代えて他の医科大学又は他の大学の医学部の入学試験を受験する機会を喪失させられ、又は制約されるなどして同人らの進路の決定に影響を及ぼしたものであり、原告らが被った精神的苦痛は、本件属性調整により合否に影響を受けたか否かにかかわらず、必ずしも小さなものとはいえない。」
「被告が、平成31年度の本件大学の医学 部医学科の入学試験において、一律に本件属性調整を行うためのシステムを廃止するなどの是正措置を講じたことが認められるところ、これらの事情を含め、本件において現れた一切の事情を考慮すると、本件不法行為により原告らが被った精神的苦痛を慰謝するに足りる金員は、原告ら各自につき1年度当たり20万円と認めるのが相当」
として、全受験生に対して、受験一年度につき20万円の受験慰謝料を認めました。
順天堂大学判決に引き続き受験慰謝料が認められたことは評価できますが、この20万円という額は、私たちが低額に過ぎると批判した一年度あたり30万円よりも更に10万円も低くなってしまっています。
この事件の本質である、性差別自体の違法性、それによる人格権(人格的利益)・平等権侵害が無視され、【得点調整を知らずに受験したことで受験校選択の自由が害された事案】と矮小化されてしまっている、一年度あたり20万円という慰謝料額は、性差別されることで大きく傷付けられる原告の尊厳、痛みに極めて鈍感な判断であると言わざるを得ないと思います。
判決後の記者会見において、共同代表の角田由紀子弁護士は「ジェンダー不平等が社会の基調となってしまっており、裁判所がそれに正当な関心を払っていない。女性差別そのものに向き合っていない。この裁判はそのことを問いたかったのだ」と指摘しましたが、全くそのとおりであると感じます。
また、順天堂判決同様、不正発覚後に是正措置を講じたことを慰謝料額を下げる方向での要素として考慮したことも納得いかないところです。是正措置を取るのは当然のことですし、それで原告の精神的苦痛が癒えるものではありません。
■「不合格慰謝料」は認めるも、予備校費用や逸失利益等は認めず
裁判所は、属性調整がなければ本来合格していたはずの原告について、
「本件不法行為により自らの意思によって受験校を選択する自由を侵害されるとともに、本件大学の医学部医学科の入学試験の受験に代えて他の医科大学又は他の大学の医学部の入学試験を受験する機会を喪失させられ、又は制約されるなどして同人らの進路の決定に影響を及ぼしたにとどまらず、本件属性調整によって不利益な取扱いを受けたために不合格とされ、結果として、同人らの期待に反する経済的損失が生じることとなったことも否定できないものであって、(属性調整がなければ本来合格していた原告らが)精神的苦痛は、他の原告らと比べてより大きなものであったといわざるを得ない。」
と判示し、一年度あたり20万円の受験慰謝料に加え、一人当たり150万円の不合格慰謝料を認めました(なお、原告1名については属性調整によって不合格となったことの蓋然性の違いにより、慰謝料額が100万円とされています)。この点は(理由付けはさておき)大変よかったと思います。
他方、裁判所は、属性調整により不合格となったために浪人せざるを得なかったことで生じた予備校費用や、別の大学へ進学したために余計に支払わなければならなかった納付金、浪人により一年医師になるのが遅れることで生じた逸失利益等、属性調整されず東京医大に合格していれば生じなかったであろう経済的損失について、
「(原告は)被告が本件属性調整を行っていることを認識していれば、本件大学の医学部医学科の入学試験を受験することはなかった」
ことを理由に認めませんでした。
これは、前述のとおり、属性調整自体が違法であるとせず「公表せずに受験させたこと」が「選択の自由の侵害」として違法だとしたことによると思われますが、何度も言うように、属性調整自体が違法であるというべきであり、これがなければ原告は東京医大に合格し、東京医大に入学していたのですから、浪人を余儀なくされたために生じた予備校費用等の経済的損失は、当然賠償されて然るべきです。この点は大きな問題と言わざるを得ません。
■控訴するかどうか、今後検討
このように、本判決は、評価できる点、問題点、さまざまありますが、原告のみなさんと一緒にさらに検討し、判決に対して控訴をするかどうか、決めていくことになります。
今後ともよろしくお願い申し上げます。
取り急ぎご報告でした。
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