2011.09.17 Sat
アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください. 本書は、昨年2010年に翻訳刊行された『愛の労働あるいは依存とケアの正義論』をよりよく理解するための、解説本であり、かつ、江原由美子さん、中谷猛さんの論考を含めて、日本にけるフェミニズム、政治思想史研究のなかで、『愛の労働』のもつ意味を明らかにしようとした本です。
『愛の労働』は、岡野(第一章)と牟田さん(第5章)の論考でも触れられているように、合衆国における家族政策の不備、とりわけ子育てに対する社会的な無責任状態を批判し、子ども、高齢者、障碍者をケアする労働を担う者たちもまた、平等な者として尊重される社会的仕組みには何が必要なのかを提言した、非常に実践的な書物である。
しかしながら、その一方で、ロールズ『正義論』といった、現代の合衆国リベラリズムを代表する哲学書との対決に、その主軸が置かれているために、リベラリズム独特の議論に通じていない読者には、難解と思われるきらいがある。
そこで、本書では、まず岡野が、キテイが格闘しようとしている、哲学的伝統を「平等論」と「正義論」との関係を明らかにしながら論じ、5章では牟田さんが、ケアに着目する現代的な意義を論じている。
さらに、『愛の労働』原書公刊から、10年以上を経て、キテイさん自身がどのような問題関心を現在抱いているのかについて、第二章で新たな論考「ケアの倫理から、グローバルな正義へ」を、第三章では、60頁に及ぶインタビューで、哲学を志したきっかけや、娘セーシャの現在、合衆国における哲学の今なお続く閉鎖性など、キテイ哲学のエッセンスを存分に語っていただいている。 c
最後に、個人的には短いながらも、林葉子さんのエッセイ「脆弱性を抱えて生きる」を収めることができたことは、大きな喜びである。彼女のエッセイは、『愛の労働』が一見すると抽象的な哲学書と見えるものの、多くの女性たちが直面している困難や葛藤から、女性たちが解放される道筋に光を当てていることを、本当によく表していると思うからだ。
キテイさんのインタビューでも語られていることだが、フェミニスト的な関心は、哲学の歴史から排除される傾向にある。しかしながら、哲学的な思考は、女性たちの経験を語る上で力を与えてくれるし、労働市場で一人前とされない者たちをも「平等」で在り得る社会を構想するための数々の道具を与えてくれると、わたしは信じている。本書は、そうした関心の下に、多くの人に哲学と社会的実践とのつながりを実感してほしいとの願いの中で作られた(共著者 岡野八代)
なお、本書については、NPO法人会員のみなさまに2冊に限りプレゼント希望者を募集中です。2011年9月30日まで
応募可能です。くわしくは、こちらをご覧ください→ http://wan.or.jp/npo/
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