
女が増えると政治は変わるのか? 女性政治家には増えてもらいたいが、だからといって女なら誰でもいいのか?
選挙のたびに女性有権者を悩ませてきたこの問題に、データをもとに説得力のあるレポートが出た。パブリック・リソース財団がチキラボこと社会調査支援機構に委嘱して出てきた
「『女性政治家』『女性候補者』が増えることの社会的影響に関する調査報告」である。すでに女性の政治進出が進んでいる社会を対象に、その効果を検証したもの。
1980年から2011年までの30年間に先進民主主義国22カ国を対象にした研究では、議会クオータ制を導入することによって「母親の就労を促進する育児関連支出」は増加し、「母親の就労を制限する家族手当の支出は減少していた」。日本を例にとれば「母親の就労を促進する育児関連支出」とは「待機児童ゼロ政策」など、「母親の就労を制限する家族手当」とは、見なし専業主婦に対する扶養控除や特別扶養控除などの税制に対応する。
最近、アメリカの最高裁が中絶合法化の判決を覆したことにショックが走ったが、州議会で女性が3割に達すると「中絶機制に関する州政策に影響を与えていた」という。3割という数字は組織論ではクリティカル・マスと呼ばれる。政府の男女共同参画政策の行動目標、
「202030」に見られるように、ある集団のなかで少数派が3割を越すと少数派は少数派でなくなって組織文化が変わる分岐点だと言われる。
おもしろいのは立法府に女性議員が増えると国防費が減少する傾向があるのに対し、行政府のトップや閣僚に女性政治家が増えると反対に国防費の支出が増える傾向があることだ。そういえば…と思い浮かぶのはフォークランド諸島に出兵したサッチャー首相や、日本の核武装を容認した小池百合子や稲田朋美などの防衛相経験者のタカ派の女性たちだ。リポートはこれに対して「女性は外交政策において『弱い』というステレオタイプを克服しなければならないという解釈」を与えている。
この解釈は、マイノリティがマジョリティ集団に参入するときに、マジョリティ以上に「マジョリティらしく」ふるまう傾向があるという、社会学の過剰同一化の理論と一致する。政権与党の女性政治家を見ていると、なるほどと感じる。
政党か性別かを比べると、男女を問わず政党ファースト、保守系の議員は男女を問わず保守的だ。与党の女性議員が夫婦別姓に反対するのもそのせい。やっぱり女なら誰でもいい、わけじゃないのだ。
「女性政治家」「女性候補者」が増えることの社会的影響に関する調査報告」 (2022 年 7 月 18 日 社会調査支援機構 チキラボ )はこちら
「朝日新聞」9月15日付け北陸版「北陸六味」掲載
朝日新聞社に無断で転載することを禁じる(承諾番号18-5999)
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