
AI開発に潜むイデオロギーを暴
ロシアのウクライナ侵攻において、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアへの降伏を発表しているように見せかけた「ディープフェイク動画」が注目された。この動画は人工知能(AI)によってつくられたもので、こうした技術が軍事的な効力をもつことが現実的に可視化された出来事だった。
日本国内でも2022年12月、「防衛省が人工知能(AI)技術を使い、交流サイト(SNS)で国内世論を誘導する工作の研究に着手した」という記事が話題になったことは記憶に新しい(防衛省はこうした事実はないと否定したが、真相は定かではない)。
本書『AIと白人至上主義』は、AI開発の背後にある帝国主義的・資本主義的プロジェクトを明るみにする研究書である。
AIは経済を成長させ、労働から人間を解放し、人間の「バイアス」を取り除く「超人的な」機械だと主張されてきた。しかし、AIは開発段階から軍事的なプロジェクトと密に連携しており、監視社会や黒人の大量収監に寄与してきただけでなく、先住民の強制立ち退きを推し進めてきた大企業の資金援助によって発展してきたのだ。
AIによって人種・ジェンダー・階級に関する差別が生まれるという指摘はこれまでもなされてきたものだが、これを指摘することが本書の真の意図ではない。AIは誕生した当初から「曖昧模糊とした移ろいやすい性質」を備えていて、〈曖昧である〉からこそ、帝国主義や資本主義に利用されてきた。それが結果として、差別や支配を再生産することにつながったのだという。
下地ローレンス吉孝氏による解説では、日本社会の状況に即しながら、権力者が「白人性」を「日本人性」として利用することの危険性を指摘している。日本で暮らす私たちにも無関係ではないことを伝えてくれる、必読の解説である。
[目次]
序文
はじめに
第1部 形成
第1章 帝国に仕える
第2章 資本に仕える
第2部 AIの「自己」と社会秩序
第3章 認識に関する捏造と機械の中の幽霊
第4章 廃止ではなく適応を—批判精神をもったAI専門家と監獄肯定の論理
第5章 人工的な白人性
第3部 別の選択肢
第6章 反対意見からのビジョン—オートポイエーシスから見た愛について、そして身体化された戦争
第7章 拒否することの生産性
謝辞
解説 下地ローレンス吉孝
参考文献/原注/索引
◆書誌データ
書名 :AIと白人至上主義 人工知能をめぐるイデオロギー
著者 :ヤーデン・カッツ
訳者 :庭田よう子
解説 :下地ローレンス吉孝
頁数 :408頁
刊行日:2022/11/30
出版社:左右社
定価 :4400円(税込)
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