写真:女性文化賞受賞を祝う会で

第26回女性文化賞決定のお知らせ

 第26回女性文化賞は、東京出身の吉峯美和さんに決定しましたので、お知らせいたします。

発表の12月12日は高良留美子さんの一周忌にあたる日です。その後1月13日に吉峯さん女性文化賞受賞を祝うランチ会が開かれ、吉峯さんの映画制作をはじめNHKのドキュメント番組制作にかかわった映画の主人公田中美津さんをはじめ、WANの上野千鶴子さん、元NHKプロデューサーの塩田純さん、それに副賞のリトグラフ作家の竹内美穂子さんなど多彩な方が出席、楽しいひと時を過ごしました。

吉峯さんは、お茶の水女子大学仏文科卒業後番組制作会社に就職、1991年よりフリーランスの映像ディレクターとしてテレビを舞台に多くのドキュメンタリー番組を制作してきました。2013年「日本人は何を考えてきたのか」『第12回 女たちは解放をめざす~平塚らいてうと市川房枝』(NHK Eテレ特集)では、近代日本の女性史を代表する二人をたんに女性解放の先駆者として讃えるだけでなく、戦時下にあって国の戦争政策とどう向き合ったか、その動揺や錯誤についてもとりあげ、そこから戦後女性の権利を土台にした平和主義にたどり着いていく過程をふくめて描こうとした点で注目されました。
吉峯さんは、2015年に同Eテレ特集「日本人は何をめざしてきたのか」『第2回 男女共同参画社会~女たちは平等をめざす』の取材で田中美津さんに出会うまで、1970年代に日本の女性たちに大きな影響をあたえたウーマン リブについて、「単語を聞いたことはあるが中身はほとんど知らなかった」と言います。田中美津さんについてもリブの伝説的なリーダーと聞いて「強くて、厳しくて、下手なことを言うと怒られる」と思っていたそうですが、会ってみると「タダ者ではないオーラをまとってはいたけれど、小柄で、飄々として、おおらかな笑顔」の持ち主であることに惹かれ、「半世紀前の昔話を聞くだけではなく、21世紀の女たちの思いにつながる田中美津を知りたい」と思ったのが初監督作品である『この星は、私の星じゃない』のはじまりでした。4年がかりで「私財をはたいて」撮影した映画を通じて吉峯さんは、田中美津という人の人間的魅力の原点を探りあてようと模索を重ね、幼い時に受けた性被害体験が彼女のリブの原点であること、結婚せずに生んだ子を育てる過程で母親として葛藤し、「女がありのままの自分を生き抜くことによって子どもという他者を受け入れる」田中さんを発見したこと、そして米兵にひき殺された沖縄の少女の写真から「この子は沖縄だ」と気がつき、沖縄に通いつめてそこに「いのちを生む」人間の営みを発見していく過程などを描き出しました。それはとりもなおさず「ピンクヘルメットの過激なデモ」といったイメージで語られがちな「ウーマン リブ」の真実とは何だったのかを問い直し、田中美津さんにとってリブとは何であったのか、それは現代社会にあってどのようなかたちで生きているかを、今田中さんが沖縄辺野古基地に反対して現地へ通う姿とともに提示するいわば「ウーマン リブ再論」にもなっています。

このような問題提起を内包した映画をつくり出した吉峯さんの努力に敬意を表し、同時にここで提起された「女性が自分を生きるということ」についての議論があらためて活発に起こることを期待して第26回女性文化賞をさし上げるしだいです。

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第26回女性文化賞受賞者  吉峯美和さん 略歴

1967年東京生まれ。中学高校時代を父の郷里である鹿児島で過ごす。男尊女卑の風潮が残る土地柄に疑問を感じながら、進学のため上京。お茶の水女子大学仏文科卒業後、番組制作会社に入社。1991年よりフリーランス・ディレクター。
2014年合同会社BEARSVIILEを設立して現在に至る。

1991年から93年までテレビ東京のレギュラー美術ドキュメンタリー「新・美に生きる」を担当。テレビ業界は男も女も関係なくブラックな厳しい労働環境だったため、女性差別を特に意識することがなかった。2000年以降NHKを中心に『女優・杉村春子への手紙~1500通に綴られた心の軌跡』(2009年、NHKハイビジョン特集)、『わたしは奇跡ではない~生誕130年、ヘレン・ケラーの真実』(2010年、同ハイビジョン特集)、『私のリュックひとつ分~ミュージシャン・矢野顕子』(2012年、NHK総合)など、女性の生き様を描く番組でキャリアを積む。「日本人は何を考えてきたのか」シリーズ『第12回 女たちは解放をめざす~平塚らいてうと市川房枝』(2013年、NHK Eテレ特集)で初めてフェミニズムと出会い、自分自身が生きていることと地続きの長い闘いの歴史があったことにようやく気づいたと言う。

 2015年、NHK Eテレ特集「日本人は何をめざしてきたのか」シリーズ『第2回 男女共同参画社会~女たちは平等をめざす』で、「ウーマンリブのカリスマ」といわれた田中美津さんを取材。「女性解放は大事だけれど、私の解放はもっと大事」「私が私として生きていないのに、妻として母として生きられるか」など70年代に多くの女たちが共感したメッセージに普遍的な力を感じて、自費で彼女をテーマにしたドキュメンタリー映画『この星は、私の星じゃない』を初監督(2019年全国公開)。4年に渡る撮影の中で、闘う女のレッテルが張り付いてきた田中さんの中に、「この星は、私の星じゃない」とつぶやき泣いている少女のイメージを発見。母親との関係に悩める「少女」だった過去の自分自身とも向き合いながら、現代の生きづらさを抱えるすべての人へのメッセージとして映画を完成させた。

その後もNHKの「日曜美術館」などで活躍している。
2020年、富士山をのぞむ山梨県忍野村に移住、将来は活動の拠点にしたいと考えている。

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女性文化賞は、1997年に詩人高良留美子さんが個人で創設され、2016年まで20回にわたってお一人で続けてこられた手づくりの賞です。「文化の創造を通して志を発信している女性の文化創造者をはげまし、支え、またこれまでのお仕事に感謝すること」を目的とし、賞金50万円、記念品として竹内美穂子さんによるリトグラフ一点を贈呈してきました。2016年第20回をもって最終回にされるとき、高良さんの「志を継ぐ方を」というよびかけに応じて、米田が2017年の第21回から上記の趣旨と、どんな組織ともかかわりなく「個人の責任で選ぶ」というスタイルを引き継ぎました。高良さんは2021年12月12日逝去されましたが、そのこころざしを生かしたいと思っています。

取材等のお問い合わせは下記へお願いいたします。

米田佐代子(女性史研究者)
e-mail ym-sayoko@hi-ho.ne.jp
<参考>ブログ 米田佐代子の「森のやまんば日記」 http://yonedasayoko.wordpress.com/

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