
地域婦人(女性)団体研究に関する“歴史書”の誕生
現職市議会議員による博士論文が書籍となった。
著者は堺市市議会会員の山口典子氏。山口氏が前委員長を務めた「堺市女性団体協議会」が本書の研究対象である。同協議会は戦後間もない1948年に、自主的な主婦の集まりとして結成された「堺主婦連」に端を発する。
目次を紹介しよう。
はしがき
序章
第1章「ジェンダー平等社会実現の取り組みにおける日本の地域婦人(女性)団体の位置づけと先行研究」
第2章「堺市女性団体協議会の概要」
第3章「堺市女性団体協議会におけるジェンダー平等社会実現の取り組みの概要」
第4章「堺市女性団体協議会のジェンダー平等社会実現に向けた取り組みのエンパワーメント視点からの分析とその考察」
第5章「堺市女性団体協議会のジェンダー平等社会実現に向けた取り組みのリーダーシップ視点からの分析と考察」
終章
注目すべき章の1つは第3章。山口氏は堺市女性団体協議会の1948年から2021年までの73年間に渡る系譜を10期に腑分けし、各期毎に日本内外の女性に関する「時代背景」と同協議会の「主な活動の概要」とを重ね合わせる。「主な活動の概要」には山口氏自身の活動も記述されており、“当事者”研究にもなっている。巻末資料の「堺市女性団体協議会の73年のあゆみおよび国内外の動き」(pp. 204-230)と合わせて、読者は個人史・団体史・社会史が織りなす複層的な歴史のタペストリーを目撃する(氏の個人史については、WAN理事長の上野千鶴子氏も登場する山口氏のエッセイ[2022]を併読するとよい)。
なお、環境とジェンダーの結びつきを研究対象とする筆者としては、第7期「ローカルとグローバルをつなぐ活動の時代」(1989~98年)の活動の一部である1991年の「SAKAI女性環境サミット」の開催や、堺市に対して焼却工場の煙突の改善を要請・実現した活動が個人的に目を引いた。
白眉は山口氏の学者としての本領が発揮される第4章。堺市女性団体協議会の究極の目標は女性に代表される弱者のエンパワーメントであるが、同協議会の通時的なプロセスと共時的な組織構造をエンパワーメントの視点から分析し①個人レベル②市民レベル③地域レベル④国レベル⑤世界レベルの5つに分類、またエンパワーメント・アプローチの側面を「心理的」「身体的」「社会的」「経済的」「政治的」「文化的」の6つに分類する。この2つの分類を掛け合わせて氏が構築するのが、本書のタイトルにもある「ジェンダー平等社会の実現と発展的プロセスモデル」(p. 133)である。縦軸は「ジェンダー平等レベルのステップ」、横軸は「ジェンダー平等社会の拡大」であり、上記の①から⑤の段階を踏むことでジェンダー平等社会は拡大していった、というモデルである。これは今後、類似の研究をする者にとって避けて通れないモデルの1つとなるだろう。
近年、女性たちの自主的な集まりに関する学術的研究が進んできたが、“団体”としての「地域婦人(女性)団体」の研究はまだ少ない。この卓抜な歴史社会学的書物の、李(2023)の言葉を借りれば「極めて優れた『歴史書』」の誕生を、手にした読者は言祝ぐだろう。
参考文献
李節子(2023).「書評」『大阪生団連会長 山口典子さんの博士号取得を祝う会 パンフレット』(p. 4).
山口典子(2022).「萩原なつ子先生との出会い、そしてジェンダー平等社会の実現へ!」萩原なつ子(監修)・萩原ゼミ博士の会(著)・森田系太郎(編著)『ジェンダー研究と社会デザインの現在』(253-263頁).三恵社.(https://wan.or.jp/article/show/10032#gsc.tab=0)
◆書誌データ
書名 :ジェンダー平等社会の実現と発展的プロセスに関する研究――堺市女性団体協議会活動の戦後73年の軌跡に着目して
著者 :山口典子
頁数 :254頁
刊行年: 2022/12/9
出版社:三恵社
定価 :2,530円(税込)
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