
米軍「慰安婦」の記憶を辿る「証言の旅」
韓国の基地村に生きた米軍「慰安婦」を知っているでしょうか?
「慰安婦」と聞くと、いわゆる日本軍性奴隷制度が思い浮かびますが、国家暴力によって生み出された「慰安婦」は日本の植民地支配期だけに存在したわけではありません。韓国の米軍基地村の性売買女性は、朝鮮戦争以降、公式的に「慰安婦」と呼ばれ、国に管理された存在でした。
本書は、韓国の基地村で米軍「慰安婦」として生きてきた金貞子さんが、長年基地村の女性たちをサポートし、貞子さんと厚い信頼関係を築いてきた活動家の金賢善さんと二人で、韓国各地にある基地村を訪ねる「証言の旅」で交わした対話で構成された証言録です。
貞子さんの証言は、忘却に抗い国家権力に対し声を挙げる女性の姿そのものであり、本書の註や「解説」等では、米軍「慰安婦」の実態や搾取構造、米軍「慰安婦」と日本軍「慰安婦」制度の連続性が指摘されています。
こうした丁寧な註や論考も含めた構成であるため、本書は「韓国にも慰安婦がいた」と日本軍「慰安婦」問題を相対化する右派の論調に回収させない軛にもなり、未だ解決されていない日本軍「慰安婦」問題をも照射する、意義深い書籍だと強く思っております。
また、訳者の秦花秀さんによる「訳者解説」では、本書が韓国で刊行された2013年以以後の動きである、当事者らが韓国政府を訴えた裁判について詳しく論じられています。
本書は基地村の女性たちが受けたあらゆる暴力を知るだけでなく、証言をすること、証言を聴くこと、そして国家暴力に声をあげ、裁判で勝利を収めた女性たちの闘いの意味について考えることができます。それは、日本軍「慰安婦」問題を抱える現在の日本社会に問われているものを考えることにもつながるでしょう。ぜひご一読ください。
◆書誌データ
書名 : 韓国・基地村の米軍「慰安婦」——国家暴力を問う女性の声
証言:金貞子 編集:金賢善 企画:セウムト 訳:秦花秀
頁数 :392頁
刊行日:2023/4/10
出版社:明石書店
定価 :4,400円(税込)
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