
ジェンダー格差の視点から見た日本語
本書は、「女ことば」を起点として、日ごろ何気なく使っていることばをジェンダー格差の視点から見つめ、英語やドイツ語など西洋語との比較も交えながら、わたしたち日本人に深く刷り込まれた「性別の美学」を問い直そうというものです。
日本には、世界でもあまり例のない「女ことば」があることと、ジェンダー格差がきわめて大きいことはむろん関係があります。ただし、女ことばの歴史は浅く、明治以降に為政者によって「女は女らしく」との規範のもとに推奨され、広められたものであり、日本の伝統ではないのです。
しかし「女ことば」が女らしさと結びつけられた時代は過去になったといっていいでしょう。今では女ことばを使うのはわたしのような年配の女性がほとんどで、若い人ほど男性と変わらないことばを話すようになっているからです。
では……その結果、ジェンダー格差は縮まったのでしょうか。いやいや。たとえ男性と同じことばを話していても、「女らしい言い回し」をしているかぎり、状況は変わらないからです。ここでいう「女らしい言い回し」とは、女性に特有の、相手に過剰に配慮した曖昧な話し方のことです。
もっとも、日本のような女ことばはないものの、英語やドイツ語など、西洋語にもこの「女らしい言い回し」は存在します。つまり、それだけ手ごわいものだということです。とはいえ、近年ジェンダー格差が目に見えて是正されてきている西洋諸国では、この点でも変わってきていると思われます。
日本のジェンダー格差がなくならないのは、既得権益を手放さないホモソーシャルな男社会にその最大の原因があるのはいうまでもありません。それでも、女性たちが「女らしい言い回し」をやめて、自らの意志をはっきりと述べることは、ジェンダー格差を是正するための大きな力になりえます。
本書がそのための一助になればと願っています。
本書のもうひとつのテーマは、「日本語における性差別」です。今回それまでの眼鏡に「ジェンダー平等」という名のフィルターをかけて眺めたとたん 、日本語にしみ込んでいる性差別がくっきりと姿を現しました。
たとえば、対語とされていても実は差別を含んでいるものがたくさんあること。一例をあげれば、「少女」と「少年」は対語ではありません。なぜ「少男」ではないのでしょう(「王女」と「王子」もしかり)。このような例は枚挙にいとまがありません。こんな日常的なことばにさえ性差別が及んでいるのです。個々の説明は本書をごらんいただくとして、このような事実を知ったうえで自覚的にことばを使うことは、わたしたちにとって大きな意味があると考えます。
目次:
はじめに
第一章 女ことばは「性別の美学」の申し子
第二章 人称と性
第三章 日本語ってどんなことば?
第四章 西洋語の場合
第五章 日本語にちりばめられた性差別
第六章 女を縛る魔法のことば
第七章 女ことばは生き残るか
あとがき
◆書誌データ
書名 :女ことばってなんなのかしら?: 「性別の美学」の日本
著者 :平野 卿子
頁数 :216頁
刊行日:2023/5/29
出版社:河出書房新社
定価 :946円(税込)
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