海を越えて詩の言葉が届くとき

それは一人の亡命中の詩人の呼びかけから始まりました。「アフガニスタンのタリバン政権による詩作の禁止に抗議するために、詩を送ってほしい」。オランダで亡命生活を送るアフガニスタンの詩人ソマイア・ラミシュさんの、世界中の詩人たちへの呼びかけは、今年1月にSNSで発信されました。日本では、旭川の詩人 柴田望さん(詩誌『フラジャイル』主宰)が、アフガニスタンの情報を知るためのウェブサイト「ウエッブ・アフガン」の野口壽一編集長を通してこの呼びかけを知り、ソマイアさんの呼びかけに応えて、日本の詩人たちに拡散しました。

ソマイアさんの元には、3月10日までに全世界から、詩の禁止と検閲に反対する百以上の詩が届きました。その一部が、アフガニスタン政権をタリバンが掌握した8月15日に、世界に先駆けて日本で発刊されました。コレクション『No Jail Can Confine Your Poem 詩の檻はない~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議』(発行:バームダード/デザインエッグ株式会社)です。

このコレクションには、日本からの36篇の詩、ネパール、モーリシャス、オランダ、フランス、米国、ナイジェリア、イタリア、イラン、アルジェリア、アルゼンチン、バングラデシュ、スロヴェニア、デンマーク、ベルギー、インド、スリランカ、ブラジル、カナダ、トルコからの21篇の詩の日本語訳が収録されています。

私はこの呼びかけに賛同して、英詩 ‘A Declaration of a ‘Poemer’ for Solidarity with Afghan Poets’ を作り、提出しました。本書には、その英詩を自分で和訳した詩「アフガニスタンの詩人たちとの連帯のための「ポエマー」宣言」が収録されています。

詩を書くことが禁止されたら? 詩は人間の生にとってどんな意味があるのか?というテーマは、異なる文化や環境の下に暮らしている世界の詩人たちにとって共通の普遍的なテーマです。タリバン政権は、アフガニスタンにおける女子の中等教育と高等教育の禁止、女子の就労や自由な行動の禁止や制限、美容院の廃止、「イスラム的でない」とタリバンが考える芸術活動の禁止など、深刻な人権侵害を次々に行なっています。そのような政府を動かすことは、詩の力では難しいかもしれません。本書は、そのことを承知した上で、詩を書くことは生きることと実感している詩人一人ひとりが、声高にあるいは小さな声で、率直にあるいは深遠な詩的言語を使って、ささやかな営為をなして、ソマイア・ラミシュさんに連帯と友情の挨拶を送った一冊となったのではないかと思います。

国内外の詩人たちの作品とプロフィールには、詩と同じぐらい人生(日常生活、大切な家族、身近な自然環境)を愛していることが感じられるものが多く見られました。異国の地で亡命生活を送っているソマイアさんの深い孤独を理解していることのあらわれでしょう。ソマイアさんの詩から引用します。

私は五番街のカフェを出て
家を探します。
自分自身を探します。
自宅の住所は覚えていません。
探せば探すほど、ますます迷子になります。
顔馴染みはいません。
別の方言で
私のヘラート訛りで話そうとしても、声が出ない
私が飲んだワインの最後の一杯のように。

「詩の檻はない」という本書の題名は、フランスの詩人セシル・ウムアニさんの詩の一節から取られました。

詩を閉じ込められる檻はない
空の青は果てしなく
子供の記憶と同じくらい広く大きい
眠っている詩人たちの顔を見れば
彼らのまぶたの下をさ迷う言葉が見える
詩人の言葉を止められる政府などあり得ない

本書はアマゾンジャパンからオンデマンド出版されました。収益が発生した場合は、ソマイア・ラミシュさんが設立した「バームダード」(亡命詩人の家)に寄付されます。
https://www.amazon.co.jp/JAIL-CONFINE-YOUR-POEM-%E8%A9%A9%E3%81%AE%E6%AA%BB%E3%81%AF%E3%81%AA%E3%81%84-%EF%BD%9E%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%AC%E3%83%8B%E3%82%B9%E3%82%BF%E3%83%B3%E3%81%AB%E3%81%8A%E3%81%91%E3%82%8B%E6%A4%9C%E9%96%B2%E3%81%A8%E8%8A%B8%E8%A1%93%E3%81%AE%E5%BC%BE%E5%9C%A7%E3%81%AB%E5%AF%BE%E3%81%99%E3%82%8B%E8%A9%A9%E7%9A%84%E6%8A%97%E8%AD%B0/dp/481503933X

ぜひお読み下さい。そして、お気に入りの一篇を見つけて、朗読してみて下さい。詩というものは、私たちが想像している以上に、私たちの生活を豊かに彩り、生き生きとしたものにしていることが、実感できるのではないでしょうか。

ソマイア・ラミシュ、柴田望編、コレクション『No Jail Can Confine Your Poem 詩の檻はない~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議』(発行:バームダード/デザインエッグ株式会社)。
詩:ソマイア・ラミシュ 青木由弥子 青木陽二 あさとよしや 植松晃一 S・K 遠藤ヒツジ 大田美和 岡和田晃 尾内以太 クノタカヒロ 佐川亜紀 恣意セシル 柴田望 高柴三聞 髙野吾朗 高細玄一 谷脇クリタ 津川エリコ TOXIC なゆた 二条千河 にゃんしー 野口壽一 南風ニーナ 葉山美玖 Haruka Tunnel ふくだぺろ 福田葉 文月悠光 三木悠莉 村田譲 元ヤマサキ深ふゆ 森耕 雪柳あうこ ゆずりはすみれ 吉田圭佑 アビ・スベディ アルシャード・カーラ アンネ・ヴェクテル セシル・ウムアニ クリストファー・メリル デビッド・ボコロ ダヴィデ・ミノッティ ファテメ・エクテサリ ハフィド・ジャファイティ フアン・タウスク ケイズ・サイード リディヤ・ディムコフスカ メッテ・モーストロップ モニーク・エマ・ジョアンネ ニーラ・ナス・ダス カマニ・ジャヤセケラ シェリー・ボイル スーザン・アレクサンダー タリク・ギュネルセル ティボー・ジャコ=パラット
イラスト:日野あかね 表紙写真:谷口雅彦  翻訳:安藤厚


◆書誌データ
書名 :詩の檻はない
著者 :ソマイア・ラミシュ、柴田望、ほか
頁数 :162頁
刊行日:2023/8/15
出版社:デザインエッグ社
定価 :1870円(税込)

NO JAIL CAN CONFINE YOUR POEM 詩の檻はない: ~アフガニスタンにおける検閲と芸術の弾圧に対する詩的抗議 (MyISBN - デザインエッグ社)

著者:Somaia Ramish

デザインエッグ社( 2023/08/15 )