生きることが「自己責任」でない社会へのたたかい
フランスで女性は男性と同じく子どもを認知するかどうか選ぶ。女性や子どもが男性に認知を求める場合、男性は裁判所に出頭しなかったりDNA検査に応じない場合は、父親と断定し、子の18歳まで養育費の支払い義務が生じる。政府の社会保障部門が母親の代わりに請求し、雇用主に連絡し給料から天引きする方法も用意している。道ゆく女性をひやかすことは刑罰の対象で、フェミニスト団体での研修が裁判で命じられることもある。
そもそも保育園の段階で、国は色分けや女児の服を褒めることなどをしてはいけないとしているし、フェミニスト団体は教材に男女が同等の数紹介されているか、男子がサッカーし女子が看護師をしているような表現がないかチェックしている。絵本の中での性別役割分担も監視している。
1970年代から「女男平等大臣」が設けられているフランスでも、女男平等はいまだ実現されていない。それでも出生の63%は婚外子(日本は2%)というくらい、女性が育児と仕事を両立できる環境ができてきたのは、女性たちがたたかってきたからだ。
70年代に保健大臣を務めたシモーヌ・ヴェイユは、すべての人が収入の1割で保育を利用でき、保育は専門的な訓練を受けた人が積極的な教育をおこなうこと、すべての女性が権利として無料で無痛分娩で出産できることなども実現してきた。けれど彼女も「男たちの抵抗にあって死ぬ思いでたたかった。それでもこの国は女性の権利を認めるには、ほど遠い状況にある」と話していたという。
日本では、女性の権利を守るために十分たたかえていない状況について、諦め受け入れている女性たちがいる。与えられた枠組みの中で小さな幸せを探し、与えられた役割の中でのパフォーマンスを求めコーチングを受けていたりする。しかし、大きな枠組みを問い直さない限り、女性と子どもにとって生きやすい社会にはならない。
表紙には「ないよりはマシ、では足りない」というフランス語の表現を引用した。フランスの現場のワーカーたちは、自らを「ミリタン」という。「信念を貫きたたかう」という意味である。
制度や国の指針は日仏だいたい同じ。それなのに人々の暮らしとそれを支える福祉の実態は大きく違う。それは、社会をより生きやすくするための人々のたたかいの違いである。困難や不足があっても、目をそらしたり諦めたりすることはない。
「社会は人が変えていける」という希望を日本に届けたい。
もくじより
★ライフステージをつなぐ
フランスの子ども家庭福祉と
ソーシャルワーク
1 市民を育てる
生まれたときから
意思あるひとりの人間として尊重する。
2 子どもの権利
NOと言えるようになって初めて、
YESが選べる。
3 生活保障
出産は無料、子どもには望む教育を
受けさせることができる。
4 親という実践を支える
親をすることは簡単ではないから。
5 家族まるごと支える福祉
家庭にワーカーが通い、
家族のふだんの生活をまるごと支える。
6 ジェンダー、性と子どもの育ち
基礎能力は読み書き計算、他者の尊重。
★コラム・用語説明・略年表
*安發明子さんによる映画『シモーヌ』の紹介記事はこちらから読めます。
https://wan.or.jp/article/show/10877
◆書誌データ
書名 :一人ひとりに届ける福祉が支える フランスの子どもの育ちと家族
著者 :安發明子
頁数 :196頁
刊行日:2023/8/11
出版社:かもがわ出版
定価 :1980円(税込)