
国内ではじめてポリアモリーの実態を調査したルポルタージュ
相手の合意の上で、複数のパートナーと交際する。そうした関係性を「ポリアモリー」と呼びます。本書は、ポリアモリー実践者を国内ではじめて取材し調査した、評論家の荻上チキ氏によるポリアモリーに関するルポルタージュです。
ポリアモリーは、いまだ日本では浸透している言葉ではありませんが、実践者は確実に存在します。荻上氏の取った統計によれば、日本にも「合意の上で複数の人と交際した」という経験を持つ人は4%もいます。つまり、クラスに1人はいる、という割合です。さらに「同時に複数の人を好きになる傾向がある」人は全体の2割に上り、日本人の5人に1人はポリアモリー的な傾向を持つ、というデータも出ているのです。
また、「複数恋愛」というと、いわゆる家父長制度に基づいた一夫多妻制のようなものを想像されがちですが、本書に登場するポリー(ポリアモリーを自認、あるいは実践する人)は、それぞれに多様な関係性を築いています。
・夫婦のうち、夫の方が複数のパートナーを作っている
・女性同士のカップルだが、それぞれに夫と子供がいる
・夫公認で恋人を作り、三人で子育てをしている
・ポリアモリーを自認しているが、いまは特定のパートナーはいない
などなど、一つとして同じパターンはありません。それぞれが一対一にとらわれない独自の関係性を手作りしているのです。
しかしながら今の日本では、ポリアモリーに向けられる視線は厳しいものです。「相手の気持ちが思いやれない人のでは」「結局は性に奔放な人間の言い訳では」「性病が蔓延する原因になるのでは」といった事実に基づかない偏見から批判されたり、自責の念を抱えたりすることで、やがて鬱や希死念慮に至るポリーは決して少なくありません。
荻上氏は、ポリアモリーをめぐる海外の論文を引きながら、ポリアモラスな人も、一対一の交際をする人も、性格やものの考え方にそれほどかけ離れた傾向があるわけではない、と誤解を丁寧に修正してもいます。
ポリアモリーは、決して見知らぬ他者ではありません。本書に登場するポリーたちの生き方に触れることで、ポリアモリーに興味がある人も、一対一の関係性を重んじる人も、「果たして自分にとって心地よい関係性とはどんなものだろう」と自問するきっかけを得ることができるのではないでしょうか。
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