またか、という思いです。
そして、今まで暴言の常連として、しようがないじいさんだ、困った人だと思いながら、徹底的に追及してこなかったために、またまたこんなひどいことを平気で言わせてしまいました。本人はほめているつもりで悪びれもせずとうとうと言っているのですから、もうすれ違いもいいところ。これだけ持ち上げてやっているのに何が不満、とこちらの怒りの意味も恐らく全く分からないでしょう。
今回の麻生発言のことです。
新聞によって、かなり詳しく報じているのとまったく記事を載せていないのとがあるので、ここで改めて新聞とnetのニュースを見てみます。
① 自民党の麻生太郎副総裁は28日、福岡県芦屋町で講演し、上川陽子外相を「新しいスター」と持ち上げる一方、[…]「そんなに美しい方とは言わんけれども、堂々と話をして、英語できちんと話をし、外交官の手を借りずに自分でどんどん、会うべき人に予約を取っちゃう」と言及。「俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」と語った。麻生氏はまた、「女性が日本の外務大臣になった例は過去にないと思う」と述べたが、日本の女性外相は、田中真紀子氏と川口順子氏が就いている。(朝日新聞1月29日)
② 自民党の麻生太郎副総裁は28日、福岡県内の講演で、上川陽子外相(岸田派、衆院静岡1区)を「新しいスターが育ちつつある」と称賛した。[…]麻生氏は上川氏について「少なくともそんなに美しい方とは言わんけど」と容姿に言及しつつ、「堂々と話をして、英語ももちろんきちんと話し、自分で(外交上の面会)予約から何から、外交官の手を借りずにやる」と評価。「このおばさん、やるねえと」とも語った。一方、上川氏のことを「上村(かみむら)」と2度呼び間違えた。(毎日新聞1月29日)
③ 自民党の麻生太郎副総裁は28日、福岡県芦屋町で講演し、上川陽子外相の容姿について「そんなに美しい方とは言わない」と言及した。一方で、「堂々と話をして、外交官の手を借りずに自分で会うべき人との(面会)予約を取っている。大したものだ」と外交手腕を評価した。[…]あんなことができた外相は今までいない。新しいスターがそこそこ育ちつつある」とも述べた。上川氏の名字を「カミムラ」と複数回間違える場面もあった。(東京新聞1月29日)
④ 自民党の麻生副総裁は28日、福岡県芦屋町で講演し、上川外相について、「英語をきちんと話し、自分で(会談相手の)予約を取る。あんなことができた外相は今までいない。新しいスターが育ちつつある」と評価した。麻生氏は講演の中で、「少なくともそんなに美しい方とは言わない」と上川氏の容姿に触れる場面もあった。また、上川氏の名字を「カミムラ」と複数回間違えた。(読売新聞1月29日)
⑤ 自民党の麻生太郎副総裁は28日、福岡県芦屋町での講演で、上川陽子外相を評価し「(党内で)新たなスター、新しい人がそこそこ育ちつつある」と期待を示した。「ぜひ女性、若い人、こういった人たちをわれわれは育てねばならない」と強調した。麻生氏は、上川氏について「このおばさん、やるねえと思いながら、そんなに美しい方とは言わんけれども、間違いなく堂々と話をして、英語もきちっと話をして、自分でどんどん会うべき人たちの予約を取る」と指摘。「あんなふうにできた外相は今までいない」と語った。
麻生氏は「女性が日本の外相になった例は過去にないと思う」とも述べた。日本で女性初の外相に就いたのは、2001年に発足した小泉内閣の田中真紀子氏。麻生氏は上川氏の名前についても講演中「カミムラ」と複数回発言した。麻生氏、上川外相を評価 「おばさん」「カミムラ」と発言も:時事ドットコム (jiji.com)
ざっと①から⑤の違いを見ておきます。
A;「俺たちから見ても、このおばさんやるねえ」としたもの。①
「このおばさんやるねえ」としたもの。②③⑤
「おばさん」発言を載せないもの。④
B:「あんなことができた外相は今までいない。」を載せたもの。③④⑤
「あんなことができた外相は今までいない。」を載せないもの。①②
C:「女性が日本の外務大臣になった例はないと思う」を載せたもの。①⑤
「女性が日本の外務大臣になった例はないと思う」を載せないもの。②③④
D:上川氏の名字を「カミムラ」と複数回間違え」を載せたもの。②③④⑤
上川氏の名字を「カミムラ」と複数回間違え」を載せないもの。①
こんな短い記事でもずいぶんと違いがあるものです。細かい事のようですが、こうした違いに、ニュースを伝える媒体の方針とか意図とかが見え隠れするのでしょう。
それにしても、ほめている相手の名前を何度も間違えたり、既に2人の女性の外相が出ているのに過去にないと言ってみたり、暴言だけでなく、ずいぶんずさんな講演をしている人ですね。
さて、麻生発言の中身に入りましょう。
従来の外相とは違った活躍をしていると現外相の実力を評価し、ほめているのは確かです。でも、その前に、ちょっと疑問があります。英語をきちっと話し、会談したい相手と自分でアポイントを取ることが、そんなにほめるべきことなのでしょうか。今までの外相がそれをしなかったからということかもしれませんが、その程度のことでそんなにほめてもらっても困るのです。外相の本来の仕事は、多くの国々との外交関係をしっかりと樹立し、相手国をよく知り、十分に自国を相手国に知ってもらうことではないでしょうか。そういう方面で活躍し、戦争を起こさないこと、戦争をやめさせること、それが外相の一番の仕事でしょう。まあ、今までの外相ができなかったことができるだけでも進歩じゃないかと言われるかもしれませんが、それは結局本来の政治家の質が問われるという元に戻るだけの話です。
ようやく本論に入ります。その女性の外相をほめるのに、なぜそこで容姿が美しいかそうでないかを言う必要があるのでしょう。男性の大臣がいい働きをしたとき、「少なくともイケメンではないけど、今回の経済政策はうまくいっている」とか言うでしょうか。決して言わない。女性の場合、今までは「美人警官」「美人アナ」など、容姿がその人の職業の冠詞として載せられることもありましたが、今はさすがにこの種の表現は消えました。自分の意思で選んだり決めたりすることのできない生得の人種・身分・出身地・障害・容貌などで人を評価したり差別したりしてはいけないことは、人権を守るための必須の条件で、今や子どもたちの教育でも重視されて浸透してきています。その市民的常識を、副総理は知らない。そういう人が副総理としていばっている、これは嘆かわしいことです。
もうひとつ許せないのは、「俺たちから見ても、このおばさんやるねえと思った」の発言です。先の記事の比較で「俺たちから見ても、」があるのは①の1紙だけ、他は「このおばさんやるねえ」だけです。まさか、①の記者が、副総理が実際には「俺たちから見ても」と言わなかったのに書いたとは思われません。他の記者たちもその部分を聞いていてたはずです。ないことをつけ加えるのは難しいーー嘘を書くことになりますからーーが、あったものを削るのは紙面の制約上よくあることです。②~⑤は、この部分はなくてもいいと思ったから載せなかったのでしょう。
女性の大臣を「このおばさん」と呼ぶのも、けしからん話です。男性大臣のことを「このおじさん、Gセブンでよくやった」と言いますか。言わないでしょう。ですが、ここではうちわの人たちでは言うかもしれないので、目をつぶるとしましょう。でも「俺たちから見ても」は許せません。「俺たち」が、上からおばさんの働きを評価している図式だからです。俺たち=男たちが女性の外相を、うんうん、よくやってるね、と指導者ぶってほめている発言です。いばっている「おじさんたち」です。とんでもないことです。自分たちは偉いと思っている「おじさんたち」に、簡単に外相の仕事が評価できるはずがない。
その「俺たち」は今や金まみれで、国民から顰蹙をかっているではないですか。麻生派はパーティ券で捜索を受けていないと言っても、どこかうまく処理していただけで、本当に潔白だとはだれも思っていません。もちろん「俺たち」は麻生派のことだけではなく、自民党指導部全体のことを言っていると思われます。昔の男社会のままの頑迷な意識の「俺たち」が、今や日本の政治を駄目にしている、国民に希望を持たせなくしている、この「俺たち」のせいで日本の政治は信用できないと、若者もそっぽを向いています。
人権意識のかけらもなく、いつまでたっても男は女より偉いと思っている、肝心な人の名前も正しく言えない、少し前の女性外相のことも忘れている、そういう人には政治を任せるわけにはいきません。
いままで何度も暴言を吐いて、それでもあの人のことだからしょうがないと苦笑しながら許してきたマスコミにも罪があります。本当に今度こそは許せません。
即刻辞めてもらいましょう。
少しでも日本の政治を庶民感覚に近づけて、若者の政治離れをとめるためにも、こういう人はすぐにも政界から去ってもらいましょう。
2024.02.01 Thu
カテゴリー:連続エッセイ / やはり気になることば
タグ:政治 / 性差別 / ジェンダー・バイアス