
「終の住処」を探す物件めぐり 汗と涙の記録
東京・幡ヶ谷のバス停で夜を明かそうとしていた64歳の女性が、見知らぬ男性に撲殺された2020年秋の事件を覚えていますか? 真面目に何十年と働いてきたのに、仕事と家を失うとどうなるか。独身女性の末路を見せつけられたようで、本書の著者モトザワはたいそうショックを受けました。この事件を機に、「まだ先のこと」と思っていた老後の家について、真剣に考え始めました。
本書は、「終の住処」を探す筆者の、汗と涙の記録です。ずっと賃貸族だったモトザワが、UR賃貸、民間賃貸、中古マンション、リフォーム・マンション、新築一戸建て、新築マンション、地方移住、はてはシェアハウスやアドレスホッピング(お泊まりサブスク)まで、行って、見て、聞いて、内見しまくりました。
57歳(取材当時、現在は58歳)で独身、夫なし・子なし・低収入のフリーライターの筆者は、不動産屋で塩対応されたりディスられたり。傷つき、「もう家探しなんてやだ!」と嘆いたことも。つくづく「高属性の会社員のうちに、家は買っておくべきだった」と痛感しました。「高齢者向け」のサ高住や有料老人ホームは取材しませんでしたが、普通に働いてきた女性たちが定年後に住める家の選択肢は、なるべく網羅的に紹介したつもりです。
来年、男女雇用機械均等法の第1期生が60歳定年を迎えます(大学を現役で卒業した場合)。定年まで勤め上げる女性が、史上初めて大量に出現します。彼女たちの多くは、働いている間は仕事に忙殺され、(かつての筆者と同様に)老後の家のことなんてあまり考えていないでしょう。
でも、働いてきた女性の年金受給額はわずか年約190万円(厚生年金含む)! 現役時代の男女の賃金格差が、老後の年金格差に直結するからです。この年収で妥当とされる住居費は25%以下、つまり月4万円弱ですが、その金額で借りられる部屋が首都圏にどれだけあるでしょう。
しかもいま50代女性の3割が独身(バツイチ含む)で、単身50代女性の8割は借家住まいです。家賃補助も社宅もなくなった定年後、家をどうするのか。彼女たちは自力で準備しなければいけません。年金が少ないため、住むところに困る住宅難民になりかねません。
それを防ぐには、定収入のある現役の間に、老後の家について――買うか借りるか、地方か首都圏か――真剣に検討しておく必要があるのです。独身男性も同じ状況ですが、彼らはもらえる年金が女性よりも多いので、買うにしろ借りるにしろ、住宅の選択肢は広がります。
――こうした課題に気づいてほしくて、本書を書きました。モトザワの体当たりルポを他山の石に、ぜひ、働く女性の皆さんには、老後どんな家に住むのか、早いうちから検討してほしいです。親の介護や何歳まで働くかなど、不確定要素は多いでしょう。でも、預貯金も貯まっている定年前は、自宅の「購入適齢期」。住宅ローンを低金利で借りられる会社員のうちに、買うなら買う。買わないなら、長い老後のため、金融資産を投資などで用意する。そんな行動を起こしてほしいのです。せっかく自立して働いてきた人生の最後を、ホームレスで終えないために。
◆書誌データ
書名 :『老後の家がありません シングル女子は定年後どこに住む?』
著者 :元沢賀南子
頁数 :256頁
刊行日:2024/3/10
出版社:中央公論新社
定価 :1,870円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
DV・性暴力・ハラスメント
非婚・結婚・離婚
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身体・健康
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