
依存症治療の第一人者の不可解な人物像と治療法に迫ったルポ
著者のインベカヲリ★さんは写真家として活動をスタートし、現在はノンフィクションライターとしても活動をされています。そんなインベさんですが、「写真家・ライターとしての表現手法の数々は精神科医の斎藤学先生の著作から学び取った」と言います。
本書の取材対象となった斎藤先生は、日本でアダルトチルドレンの概念を広め、依存症の概念を日本に紹介した精神科医です。50年以上の長きにわたって家族病理の問題に向き合い続け、児童虐待防止法やDV防止法の制定にも尽力されました。その他にも斎藤先生は自ら出版社や学会・患者会を立ち上げるなど精力的な活動を続けてきましたが、2022年には惜しまれながら院長を務めるさいとうクリニックが閉院しました。そうした中で、インベさんから「斎藤先生と患者さんたちの特異な関係性を著作として残したい」という提案があり、1年半にわたる取材の結果、本書の出版が実現しました。
現在斎藤先生は、家族機能研究所というカウンセリング施設で保険診療を行わずに「さいとうミーティング」と言われる集団療法をはじめとする薬に頼らない言葉を使った治療を行っています。斎藤先生の心理療法の大きな特徴の一つが、「人類の起源」などの治療とは全く関係ない話を延々とし続けた結果、場の空気が変容し、突然患者さんが症状の核心を語り始めるというものです。本書はそうしたイリュージョンのような斎藤先生の心理療法の一端が垣間見える内容になっています。
また、斎藤先生の元に通う患者さんたちは、摂食障害、性倒錯、窃盗癖、買物依存症など多様なアディクションを抱えて長年通院していますが、その中にはフルマラソンを完走したり、心理療法家や法律の専門家として活動したりするなど、傍目からは「すでに治っているのではないか」と思わせるほどエネルギッシュな人たちがたくさんいます。そうした彼ら、彼女らはなぜ斎藤学という人物を追い求めるのか。本書は患者さんへの取材を通して斎藤先生の魅力的な人物像や不可解な言動に隠された意味、謎に満ちた治療法にも迫ります。
本書に登場する患者さんのエピソードは自分にも関係あると思わざるを得ないものばかりです。そうしたエピソードの数々を読んでいると、まるで斎藤先生の治療を受けているような感覚にとらわれるかもしれません。
◆書誌データ
書名 :『伴走者は落ち着けない―精神科医斎藤学と治っても通いたい患者たち―』
著者 :インベカヲリ★
頁数 :272頁
刊行日:2024/5/10
出版社:ライフサイエンス社
定価 :2200円(税込)
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