
「ただそこにいる人」として、子どもの声を受け取る
本書は、筆者が3人の子ども(現在小5、中2、高2)を育てながら、自分の暮らす地域から「民主主義の芽」を育てようとした記録です。筆者は教育学者のジョン・デューイの研究をしており、デューイの思想が現代によみがえったらどのような形になるだろうかと模索しました。
題名にある「じゅうえんや」とは、筆者が地域の子どもたちと開いている小さな駄菓子屋を指します。昔はどの町にも駄菓子屋さんがあり、放課後の小学生でにぎわっていたと聞きます。ないのであればやってみよう!と古い裁縫箱を取り寄せ、10円のお菓子をぎっしりと詰めました。そして広場に向かいます。なぜお菓子が10円かと言うと、子どもたちにとって買い物ができる最小単位であり、子どもたちから「消費税」を取らないためでもあります。
自ら町に出ることで、子どもたちの生の声を聞くことができます。「学校どう?」「うーん、おもんない!(面白くない)」「先生、怒るとこわい」…ペチャクチャ。1回の「お買い上げ」ごとに、名刺の裏にスタンプを押します。そこには、筆者の連絡先が書いてあり、万が一困ったことがあれば連絡してほしいと記しています。
公的なセーフティネットワークは、形式的には整備されているもしれませんが、実質的には頼りにくいものです。筆者も以前、生活の諸々に限界を感じ、京都市のシングルマザー専用窓口に電話をかけたところ、「もっと頑張りなさい!」と謎の叱咤激励を受けました。「もうこんなところ頼れない!」と立ち上がらせようとしたのでしょうか(苦笑)
筆者はこうした経験もふまえ、本当に「ただそこにいる人」として、誰かの声やSOSを受け取る存在でありたいです。お菓子が繋いでくれるご縁はあなどれません。町を歩けば「ね〜、次のじゅうえんやいつ?」と子どもたちから声をかけられます。勝手に子どもに話しかけると「不審者」扱いされてしまう今だからこそ、声をかけてもいいおとなでいることが肝心です。
民主主義の芽は、まずはおしゃべりだと思います。あれこれ話しながら、子どもたちがやってみたいこと、反対にやりたくないことを一緒に見つけ、サポートするおとなでありたいです。
◆書誌データ
書名:ママは駄菓子のじゅうえんや
著:西郷南海子
刊行日:2024/2/14
出版社:かもがわ出版
定価 :1870円(税込)
慰安婦
貧困・福祉
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