「支援」に傷つくママたち

「支援」という言葉には、「上から目線」のニュアンスが漂います。せっかく助けてやったのに… そんなまなざしにさらされ、言いたいことを飲みこみ、もう支援なんて受けたくないと傷ついている人たちがいます。本書は、その声にならない「声」を聴くところから始まります。

 長年子どもの貧困問題の取材を続けてきた中塚久美子記者(朝日新聞)が「ことばを聞きに」行ったのは、寺内順子さん(シンママ大阪応援団)と辻由起子さん(シェアリンク茨木)。シングルマザーをはじめ生活に困難を抱える子ども・女性たちとつながり、その生活を支え、応援する活動をされているおふたりです。

 寺内さんも辻さんも、つらいと声をあげた人たちに対し、くわしく事情を聞いたり、生活改善を求めたりしません。寺内さんいわく「説教はいらない。過去は聞いても変わらない」。まずはその人をまるごと肯定、よくがんばってきたねといたわります。上からでも、下からでもない、ニュートラルで温かい態度が、相手の心をほぐしていきます。

 辻さんの信条は、制度ではなく「人を〈人〉として大切にすること」。制度ではこうなっています、ではなく、その人が何に困っているのか、何を必要としているのかを知ることが出発点。政治家、自治体職員、会社の社長…誰であれ臆することなく窮状を訴え、力を借ります。

 寺内さんと辻さんの「ことば」を知るだけで、充分多くのことに気付かされますが、最終章を読むことで、俯瞰的に現状を理解することができます。所得再分配機能の不全、教育費の家庭負担割合の高さ、DV、生活保護への偏見など、社会的に弱い立場にいる子どもと女性が貧困に陥るのは自然現象ではないのです。

 中塚さんは最後に、イギリスの反貧困の実践者であり研究者のルース・リスターさんの言葉を紹介しています。
「哀れみではなく力を(Power not pity)」

 求められているのは哀れみ、同情ではありません。現状に抗う「力」をシェアするためのことばが、たくさんつまった1冊です。

【もくじ】
第1部 「何も聞かない」から始める 寺内順子さん 
     第1章 「いま」に寄り添う 
     第2章 独りぼっちにさせない
第2部 「安心して困れる世界」をつくる 辻由起子さん
     第3章 目の前の命まるごと
     第4章 なかよしの他人を増やす
第3部 現状と課題を読み解く 子どもと子育て家族のデータ・研究から  
     第5章 女性と子ども・若者の困難

著者プロフィール
1971 年生まれ。98 年に朝日新聞の記者になり、2014 年から専門記者(子ども、貧困)。
著書に『貧困のなかでおとなになる』(2012年、かもがわ出版)。『生まれ、育つ基盤 子どもの貧困と家族・社会』(2019年、明石書店)、『失敗しないためのジェンダー表現ガイドブック』(小学館、2022年)などにも執筆。貧困ジャーナリズム賞(2010 年)、取材班で2016 年坂田記念ジャーナリズム賞など受賞。

書誌データ
書 名:子どもと女性のくらしと貧困 「支援」のことばを聞きに行く
著者名:中塚久美子
出版社:かもがわ出版
刊行日:2024/5/20
単行本:‎256ページ
定 価:本体2000円+税

子どもと女性のくらしと貧困

著者:中塚 久美子

かもがわ出版( 2024/05/20 )