稀代のカテゴリストが紐解く、 現世日本の「上に見たり、下に見たり」
東京の女子高生を分類したエッセイを高校時代に発表してから40年。私立・公立の相違点のほか、多岐にわたり書き込まれた「女子高生による女子高生の実態」は、当時のエッセイ・コラム業界に衝撃を与えました。そのあとも、酒井順子さんは「未婚/既婚」「負け犬/勝ち犬」「子あり/子なし」「京都/東京」、さらには「三島由紀夫/水上勉」と、違いや差を考察した作品を発表し続けています。比較することで対象をより掘り下げる酒井さんは、いわば稀代の「カテゴリスト」なのです。なかでも、2012年刊行の『下に見る人』(2016年文庫化)では、自身の「上に見たり、下に見たり」意識を、あますところなく明かしていました。
それからさらに10数年。多様性の共有化が浸透するなか、書けない言葉、言えない言葉が加速度的に増えました。上述の『下に見る人』のなかのいくつかの言葉は、現在では扱いが難しい一面も。しかしながら、人々から差別・区別・序列意識が消えたのかというと、そうではないことが「陰キャ・陽キャ」「親ガチャ」などの言葉が生み出されることに表れています。
このように、地下に潜ったり形を変えたりした日本人の階級意識をあぶり出すのが本書です。目次を見れば「東大礼賛と低学歴信仰」「『ドラえもん』が表す子供社会格差」「世代で異なる、斜陽日本の眺め方」「バカ差別が許される理由」など、こんなところにまで「凸凹」があったのかと意表を突く切り口の数々。読者は、日頃、無意識下にあったおのれの「上に見たり、下に見たり」感覚を揺さぶられるに違いありません。
複数の人が集まれば、当然ながらそこに「違い」は生じるものです。ただ、自身の差別・区別意識を自覚したうえか、丸腰で向き合うかでは、相手に対する言動も異なってくることでしょう。生活のそこここに潜むさまざまな「階級」を紐解き、自身の「差別意識の取り扱い」について、今一度掘り下げることに大いに役立つ一冊です。
◆書誌データ
書名 :消費される階級
著者 :酒井順子
頁数 :264頁
刊行日:2024/6/26
出版社:集英社
定価 :1870円(税込)