
困難を抱える女性や母子に特化した「住まい」を提供し、「自立支援」を行う拠点「六甲ウィメンズハウス」(地域での名称は「ミモザハウス」)が2024年6月、神戸市灘区に完成し、8日と9日にオープニングセレモニーが開かれた。
セレモニーで挨拶したNPO法人ウィメンズネット・こうべ代表の正井禮子さんは、オープンに至るまでの長い道のりを様々なエピソードとともに話した。
#女性たちには駆け込み寺が必要だ
正井さんは仲間たちと1992年に女性グループを立ち上げ、94年3月神戸市内にメンバー10人で借りた「女たちの家」をオープン。様々なテーマで語り合いの会を催し「話すことで仲間と出会えて元気になれる」と感じてきた。8月頃から暴力被害の相談が入るようになり、「誰でも500円で泊まれます」と、12月の会報に掲載したところ、3人の子を連れて駆け込んできた女性がいた。「助産師として15年働いてきた人でした。家では『仕事を持っているから生意気だ』と夫から暴力を受けてきたそうです」。まだDVという言葉が知られていない時代でも、家庭内暴力や虐待は存在していた。正井さんは「駆け込み寺的な役割をする場が求められている」と実感したという。
95年1月には「女が一人で生きていくということ」をテーマにしたイベントを準備していたが、1月17日の阪神・淡路大震災で「女たちの家」を失い、実現しなかった。被災後、正井さんたちの活動の守備範囲は広がったが、DV被害女性と子どもたちを支援する軸は貫いてきた。2015年には認定NPO法人資格を取得し、現在までウィメンズネット・こうべとして活動してきた。
#「ここに住みたい」と思える家を作る
今回完成した「六甲ウィメンズハウス」プロジェクトに取り組む直接のきっかけは、2010年に居住福祉をテーマとする研究者たちとともにデンマークで母子が暮らす施設を見学したことだった。そこは、外観は老朽化していたが、内部は明るく開放的。共有のキッズスペースの横にはガラス張りの相談ブースがあり、子どもたちは相談する母の姿を確認しながら遊ぶことができた。「日本にも、困難を抱える女性たちが『ここにしか住めない』ではなく、『ここに住みたい!』と思えるような住まいをつくりたいと強く思いました」
正井さんが思い描く理想の住まいをイラストに描き起こしてくれたのは娘さんだそうだ。「夢のウィメンズハウスをつくろうと、イラストを載せたチラシを10年間配布し、協力者を募りました」。三宮から阪神間で企業の休眠施設を探したところ、コープこうべが所有する旧社員寮を提供してくれることになった。偶然にもイラストに描いたものと同じ4階建ての物件で、1階には店舗も営業していた。

居室の一例。寝具は入居者が自前で用意する
#神戸発リノベーションモデルとして発信
趣旨に賛同した公益財団法人 神戸学生青年センターとウィメンズネット・こうべが他グループの支援を受けながらプロジェクトを推進。改修工事費の見積もりは約1億8千万円にのぼった。2回のクラウドファンディングで約2千万円が集まったが、それでは全く足りない。企業にも寄付を募り、外資系企業の協力をいくつか取り付けた。北欧家具のイケアは、子ども基金をファミリー基金に組み替えて、居室をはじめパブリックエリアの家具類をすべて提供してくれた=写真は一例。「残念ながら日本の企業は、積極的に応じてくださるところはあまり多くはありませんでした。しかし、その分、個人の方からの寄付が非常に多かったことに驚きました。全国各地から、応援の声もメールを頂きました。WANのネットワークで、プロジェクトを知った方も多かったと思います。ありがとうございました」
画期的だったのは、国土交通省の「令和4(2020)年度住まい環境整備モデル事業」に応募して採択され、費用の3分の2の1億2千万円を国が負担することになったことだ。
「クラウドファンディングでは全国から応援がありました。母子家庭で育った男性からは『母の苦労を見てきたので』と100万円もの寄付をいただきました。国交省で開かれた審査会で、ある委員から『NPOと民間企業が連携して社会貢献の建物を作ること自体が非常に少ない。しかも、女性の生活再建というジェンダーの視点の事業で40室という規模は日本初。それが、神戸から始まるんですね。休眠施設のリノベーションのモデルとなって全国に広まってほしい』という言葉をいただきました」

「海側の部屋からの眺めは晴れた日はとても気持ちがいいのですが、場所が特定されるので、窓からの景色は写せないんです」と話す正井禮子さん
#“ハウジングライツ”をすべての人に
正井さんたちが事務所で改修プランを検討して「北側の部屋は日当たりが悪いから、物置にでもしようか」と話していた時、近くに座っていた若い女性が「お話が聞こえてきたので」と声を掛けてきた。「私は児童養護施設で育ちました。18歳になって施設を退去することになった時、住まいに困り、安心して眠れる部屋さえあればと心から思いました。物置ではなく、ぜひ部屋にしてください。それで救われる人がたくさんいます」。正井さんはこのような、様々な人との出会いで「六甲ウィメンズハウス」は出来上がったと強調した。
「私は、この事業は本来、国がやるべきものだと思います。例えば1994年のイギリスでは、DV被害女性が警察にSOSを出すと、地方自治体は女性に住まいを提供する責務がありました。その背景に、ヨーロッパでは、誰もが安心・安全に暮らせる住まいを持つ権利(ハウジングライツ)が思想として定着していたからとのこと。屋根のある家に住んでいても、DVや虐待の被害者はホームレスと認定され、国が住まいを提供しているのです。日本では今年4月から困難女性支援法が施行されましたが、その年にこの事業がスタートした意義は大きい。でも、これはゴールではなくスタートです。デンマークではシェルターは出入り自由で『コミュニティーが守ってくれている』と聞きました。DV被害を経験した女性でも、普通の暮らしをする権利、ノーマライゼーションがあるというのです。私たちもここで地域に開かれたものを作っていきたい」
オープンにあたり今年5月、ウィメンズネット・こうべと神戸学生青年センターは「六甲ウィメンズハウス運営協議会」を発足させた。運営スタッフは3人が常駐する予定だ。
ウィメンズネット・こうべでは今後の運営のために、引き続き「困難を抱える女性と子どものための居住支援基金」を募っている。
六甲ウィメンズハウス「居住支援基金」特設サイトはコチラ

キッズスペース
ミモザハウスの概要
【入居対象】
・自立を希望する小学生までの子どもがいるシングルマザー
・就労・自立を目指す18~20歳くらいまでの若年女性
・学ぶ意欲のある経済的困難を抱えた女性の学生、留学生
・資格取得意欲・就労意欲があり、自立を目指す単身女性
【特徴】
・入居期間は原則3年間(学生は4年間)
・事前面談(無料)
・入居中も定期的に面談し、精神的・経済的に自立するまでのステップを支援
・プライベートエリアは入居者家族を含め、男性の立ち入り禁止
【パブリックエリア(2階)】
・ロビー、キッズスペース、コミュニティカフェ、学習室、シェアオフィス(3室)
【居室について】
・プライベートエリア(2~4階)に全40室
・居室にはシステムキッチン・トイレ・家具・家電(電子レンジ、冷蔵庫、洗濯機※を予定)付き。Wi-Fi無料。寝具や調理器具などは入居者が用意する ※一部居室は共用
・入居人数に応じて全8タイプ(19.5㎡~57.0㎡、一部居室はシャワー室、浴室、洗濯機、乾燥機は共用)
・敷金・礼金・仲介手数料なし 保証人不要
・家賃(共益費別)28,000円~52,000円※家財保険費、自治会費、水道光熱費は別途要
六甲ウィメンズハウス公式ホームページはコチラ
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