
「ガスライティング」とは、1930年代の英国の戯曲で、1944年に映画化された『Gaslight(邦題「ガス燈」)』に由来し、作品のなかで巧妙な嘘と操作によって妻を精神的に追いつめていく夫の加害行為から名付けられた暴力の一形態です。ストーキングとは異なり、加害者の気配は見せず、DVよりも洗脳の方略が強いため、被害者は気づかぬうちに巻き込まれてしまいます。
米国では、2022年に〈今年の流行語〉になり、原著は2023年8月に出版されました。読んですぐに「これは日本でもよくあることだ」と思い、広く紹介できればと思って翻訳しました。
政治家や議員の「嘘」や「煙に巻く」ような言いかたも、社会的ガスライティングの典型例です。「質問攻め」で相手に詰め寄りながら、問い返されると「なぜ今、そんなことを聞くのか?」という疑念を呈し、相手を〈答えられないやつ〉とか〈タイミングの悪いやつ〉であるかのように仕立てていく。言っていることがメチャクチャだから対話にならず、ガスライター(加害者)の独壇場になっていくのは、しばしば見かける光景でしょう。
ガスライティングは、権力関係のなかで起こるため、もともと被害者は〈弱い〉立場に置かれています。だからこそ、ガスライターの言い分を冷静に捉え、境界線を引き、支配の方略に気づくこと、そして、仲間との〈つながり〉をもつことが、〈支配〉への対抗/抵抗になります。
本書では、境界線や共依存の観点から、対等な関係性とは何かが具体的に示されています。また、セルフケアとして、トラウマインフォームドケア(TIC)の観点から、EFT(エモーショナル・フリーダム・テクニック)タッピングやIFS(内的家族システム)など、回復に役立つさまざまな技法が紹介されています。
トラウマの根底にある社会の性差別や排除の問題を問いながら、〈今できる選択〉がたくさん挙げられており、エンパワーされる本です。ぜひ、お読みいただきたいです。
Amelia Kelley,Gaslighting Recovery for Women: The Complete Guide to Recognizing Manipulation and Achieving Freedom from Emotional Abuse,Zeitgeist, 2023.
◆書誌データ
書名 :『ガスライティングという支配――関係性におけるトラウマとその回復』
著者 :アメリア・ケリー
翻訳 :野坂 祐子
頁数 :272頁
刊行日:2024/7/20
出版社:日本評論社
定価 :2420円(税込)
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