女の本屋

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竹信三恵子『ルポ賃金差別』『しあわせに働ける社会へ』

2012.07.30 Mon

アマゾンのサーバでエラーが起こっているかもしれません。一度ページを再読み込みしてみてください.4月に「ルポ賃金差別」、6月に「しあわせに働ける社会へ」を相次いで出版しました。

前者は賃金差別とは何かを、訴訟などを起こした体験者への取材を通じて明らかにしたものです。

また後者は、若い世代に、いまの労働市場を正確に理解してもらうために、中学生にもわかるように書きましたが、むしろ、激変する働き方についていけない親の世代にこそ読んでほしいとも思っています。

一見、まったく方向の異なる本のようですが、実は2冊は双子のような存在です。

まず、「賃金差別」についてですが、日本では昨今、賃金差別について語られることはほとんどなくなりました。

先日も米国の大学で教えている知人が日本に戻り、ある経済関係の大手メディアに寄稿したところ、「賃金差別」と言う言葉は企業人に受け入れられないので、「賃金格差」に言い変えてほしいと求められたそうです。 でも、この二つは別のものです。賃金格差は単に「差があること」ですが、賃金差別とは女性や若者を筆頭とする「安くても仕方ない人々」を作り上げることで、その人の実際に果たしている仕事の価値への正当な理解を妨げ、人件費を抑制することです。

日本では、こうした「賃金差別」についての定義も共有されていませんし、何をもって差別とするのかを測る客観的な物差しもありません。

そんな中で、「差別」が「格差」にすりかえられ、「差別」の言葉さえ口にされなくなり、「差別」への理解や解決が妨げられてきたのです。

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一方、若い世代の労働論も、似たような状況です。

非正社員がこれだけ増やされ、正社員が大幅に減らされたことが、就職難の背景にあるのに、「若者が怠けているから正社員になれない」と言わんばかりの言説がまかり通っています。

労働市場の構造こそが問題なのですから、「キャリア教育」で会社に気に入られることに血道を上げるより、危ない会社と渡り合える知識をつけ、雇用の質の立て直しを測る方が早道です。

若い人に、そうした現実を理解してもらうことで、無益な自己責任論で元気を失っていく事態にストップをかけようと考えたのが「しあわせに働ける社会へ」です。

2冊に共通するのは、不公正な賃金決定や劣悪化する雇用の現状を直視せず、「人はそれぞれ違うんだから賃金に差があるのは仕方ない」「安い非正規に仕分けされる若者が多いのは若者の努力不足だ」といったサギめいた言説の横行に歯止めをかけようとの意図です。

だまされている若い世代や、働く場の改善を求めるべきときにその犠牲者のはずの就職できない子どもたちを責めてしまう親たち、そして、たくさんのまじめに働く人々に、真実を!

それこそが働く場の元気の回復につながるはずです。ぜひ、読んでみてください。(ジャーナリスト、和光大学教授 竹信三恵子)








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タグ:仕事・雇用 / / 家事労働 / 働く女性 / 竹信三恵子