
『戦争と看護婦』は、戦争と看護の関係を多角的に捉えた貴重な1冊である。本書は、日本赤十字社(日赤)の看護婦たちが戦時下でどのように召集され、戦地で活動したのかを丁寧に記録している。男性が受け取った召集令状(赤紙)に比べ、同じように「戦時召集状」を受け取り戦地に赴いた看護婦たちの存在は、歴史の影に隠れがちである。本書は、川島みどり日本赤十字看護大学名誉教授をはじめ、川原由佳里、山崎裕二、吉川龍子ら、看護歴史学会の会員であり、日本赤十字看護大学の教授陣が日本赤十字社の資料を丹念に調査し、従軍看護婦の歴史を掘り起こした労作である。
「(日赤)卒業後2年間病院において看護婦の業務に服し、卒業後20年間は身上になんの異動を生するも、国家有事の日に際せば速やかに本社の召集に応じた患者看護に尽力せんことを誓うべし。」という赤十字の救護看護婦養成規則に基づき、結婚して幸福な家庭生活を営んでいた女性たちにも「戦時召集状」が届き、有無を言わせず戦地に赴くこととなった。乳飲み子を残して戦地に向かった看護婦の手紙は、読む者の心を打たずにはいられない。彼女は夫を気遣いながら、懐かしむ乳飲み子への想いを綴り、戦地でマラリアと脚気により殉職、その夫も昭和19年に満州で病死したという。
本書は全9章から構成され、第9章「日赤看護婦、性暴力と精神障害の現実」では、敵兵だけでなく味方の兵士からも性暴力を受けた看護婦たちの悲惨な現実が描かれている。戦後、従軍看護婦に対する国からの補償は長らく行われず、戦後も困窮した生活を強いられた事実が、日赤の資料とともに記録されている。
さらに、最近の事例として、コロナ禍の3年半にわたり、地方の医師会に所属する看護学校の学生たちは、放課後に「アルバイト」として医療機関で看護助手として働くことを学校から求められた。また、看護系大学院生も医療機関や保健所へ応援に行き、実際に私も看護大学院生としてコロナ禍の児童相談所一時保護所で勤務した。コロナ禍における看護師たちは、戦時中の従軍看護婦と同様の役割を果たしていたといっても過言ではない。
このように、本書は、召集令状を受け取ったのが男性だけでなく、女性である看護婦たちが召集令状を受け、戦地へ赴いた事実を改めて考える良書である。
◆書誌データ
書名 :戦争と看護婦
著者 :吉川龍子、山崎裕二、川原由佳里、川島みどり
頁数 :286頁
刊行日:2016/8/15
出版社:国書刊行会
定価 :2420円(税込)
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