エッセイ

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髙橋愛 竹村和子先生を偲んで

2012.08.12 Sun

研究する意味

著者/訳者:金子 勝 高橋 哲哉 竹村 和子 岡 真理 吉見 俊哉 藤原 帰一 大澤 真幸

出版社:東京図書( 2003-05-01 )

定価:

単行本 ( ページ )

ISBN-10 : 4489006535

ISBN-13 : 9784489006531

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「今日はまだ何も食べていないのよ」——夕方近くに研究室を訪ねていくと開口一番、竹村先生はよくそうおっしゃったものでした。

そんな先生との思い出として浮かんでくるのは、なぜか食べ物とかかわることばかりです。とりわけ強く印象に残っているのは、執筆中には食事をするなという指導でした。論文指導にうかがうときまって、「アンタ、ご飯食べてるでしょ?ものなんか食べてるからロクなものが書けないのよ!」と言われたものです。

固形物を食べたければブドウ糖を口に入れればいいと言い、現物を引っぱりだしながら入手先まで嬉々としてお話しされることもありました。

集中力を保つために論文執筆時には食事をすべきでないとのことでしたが、「ご飯を食べると幸福な気分になってしまうでしょ。論文を書くのに幸福な気分でいちゃダメよ」とお話されていたこともあるのだそうです。

良いものを書くためには食べるなという先生の考えは、学究の徒としての先生の凄みと、どこかとぼけた先生のお人柄の両方を表しているように感じます。

私が先生と最後にお会いしたのは、平成20年の夏の終わり—先生がサヴァティカルでバークレーに行かれる直前—のことでした。

それ以降メールをくださるたびに、就職をして東京を離れた私の身を案じ、健康に留意するよう説かれたものです。

最後になってしまった去年の夏のメールでも、「健康にはくれぐれも留意するようにしてくださいね。私が言うのも何ですが、食事と運動です」と書かれていました。

今になってみると、「食べるな」と指導をされた際に、先生こそきちんとした食事をしたほうがいいと言ってみればよかったと悔やまれてなりません。

平成9年にお茶大大学院に入学した際、ハーマン・メルヴィルを専攻しているという理由だけで、先生は私の指導を引きうけてくださいました。

批評のことは何も分からず、英語力も酷かった私が、今も研究活動を続けていられるのは、先生が辛抱強く鍛えてくださったおかげです。

先生の恩に報いるためにも、先生がかけてくださった言葉の数々を胸に、わたし独自の堅牢な世界を作りだしていきたいと思います。








カテゴリー:竹村和子さんへの想い / シリーズ

タグ:身体・健康 / フェミニズム / 竹村和子 / 追悼